ケース🔟 前世来世

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その時、江戸川はもうジョオの懐《ふところ》まで入り込んでいて、サバイバルナイフを持った片手を捻じ上げ、まるで藁《わら》人形のように簡単にジョオの体を投げ飛ばした。 地面に叩きつけられるジョオ。 その衝撃で、持っていたサバイバルナイフが床に転げ落ちた。 「くっ!」 それを見ていた江戸川が、サバイバルナイフを素早く蹴ると、部屋の隅の暗闇へと消えていく。 「これで、武器はなくなったな。」 江戸川が、調子良く言い放った。 倒れていたジョオは、脇腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。 痛みと息苦しさが、酷いようだ。 「・・ふぅ。武器がなければ、私に勝てると思うのか?」 「これで、お互いフェアな戦いだろ?」 ニヤリと笑顔を返す江戸川。 脇腹を押さえたまま、呼吸を整えているジョオ。 そこで江戸川が、見透かすような目で告げた。 「それに・・・・。お前、あの時松田さんからやられた脇腹が、まだ完治してないみたいだな。」 額に汗を滲ませるジョオ。 そこで、江戸川はまるで、挑発するかのように手招きして言った。 「どうした? かかって来いよ。」 その途端、ジョオが一気に飛び込んでくる。 顔やボディへと連打に繰り出してくるパンチを、江戸川はガードで受け止めたり、素早く攻撃をかわした。 ジョオの長い手足と、その高身長からの攻撃は予想以上に圧力があり、江戸川は防御で精一杯である。 更に続けて、ジョオの追い討ちの連続回し蹴りが襲い掛かってきて、なんとか攻撃を受け流していた江戸川であったが、極めつけのバックスピンキックがヒットした。 後方へと、吹っ飛んで転ぶ江戸川。 「ぐうっ!」 胸部を押さえて、苦痛を浮かべる江戸川。 ゆっくりと呼吸を整えながら、ジョオは立っている。 江戸川は、青褪めた顔色で額に汗をかきながら、ゆっくりと呼吸した。 「くっ・・、コイツ。脇腹を負傷しているのに、こんなに強いなんて・・。」 その頃、山道の脇に停めてあったガンメタ色のスープラの横に、けたたましくサイレンを鳴らした警察車輌がやってくる。 同じく道脇に停車した後、その車輌から降りてきたのは、刑事課係長の岩倉と部下2名だった。 「係長。江戸川と白凪は、この奥の山道に入っていったようですね。」 部下の一人が言う。 険しい顔つきで、岩倉が答えた。 「あの二人。危険な目に遭ってなければいいが・・。この現場には、応援が急行している。それまでは無理に突入せず、状況を把握しろ。」 そうして三人の刑事たちは、車輌を停めた山道から脇道へと歩いていく。 静まり返った真っ暗なこの場所は、周囲は見渡す限り木々に囲まれているのだった。
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