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一方、3階の棟では、病室らしき部屋を幾つか探索した後、珠里は再び銃を構えて廊下を進んでいる。
暗闇に包まれた静かな空間で、唯一手に持っているライトの光だけが頼りだった。
この建物に紛れ込んでしまった貴志の救出はもちろんだが、それと共にここには例の容疑者である四姉妹がいるに違いない。
こうして探索しながら進む度に、そのどちらと遭遇するのかという緊張感に押し潰されそうになる。
鬼が出るか蛇が出るか、といった感覚だ。
刑事という職務は特殊で、世の市民を守る事は当然であるが、得てしてこういう危険な場面を決して避ける事は出来ない。
その時々の状況次第では、まるでロシアンルーレットのような、自分自身の運試しをする事にもなるのだ。
視覚・聴覚・感覚など、それら全ての五感を総動員して、周囲の状況に一早く意識を張り巡らせる。
そのせいか、灯台下暗しで、足元に転がっていた空き缶などを思わず、蹴飛ばすのだ。
その物音に思わずハッとして、緊張感が最高潮に達する。
やがて、病室の並んだ長い廊下を抜けると、大きなガラス戸に辿り着いた。
そのガラス戸を開けると、そこは屋上のテラス空間のようになっており、バスケットコート程の面積が広がっている。
ここは屋外空間である為、時折風が珠里を通り抜けていき、見渡す景色は全て暗闇の森だった。
屋上テラスといってもランチをするような小洒落《こじゃれ》た雰囲気の類《たぐ》いではなく、既に廃墟と化している事も相まって、ただ広がった屋外であり、おそらく当初は洗濯物干しなどに使われていたと思われる。
そして、この屋上テラスが位置するのは、建物の入口や中庭とは反対の方角で、ここから見下ろしたとしても、木々が立ち並んでいる景色しか見えなかった。
その時、珠里は遠くの方から近付いてくるパトカーのサイレン音を聞き逃さない。
「そろそろ応援が、到着する頃だわ。」
珠里が、何もないはずの屋上テラスを歩いていると、ふとガラス戸際の隅の方で、ポツリと立っている二つの影を見つけた。
身を寄せるように隠れていた、その二つの影が小さな子供だと判別するのに時間はかからない。
ゆっくりと影の所へ近付いた珠里は、ライトを照らして確認すると、それが外人の女の子だと分かった。
一人の女の子は12〜13歳ぐらいで大人しく立っており、茶色い髪を一本の三つ編みにして、片方の肩口に垂らしている。
清楚なイメージで、白いエプロン風の洋服を着ていた。
もう一人の女の子は10歳ぐらいで、青い瞳をしており、髪はブロンドで長く後ろに大きなストライプのリボンをしていた。そして、ブルーのワンピースを着ている。
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