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「じゃあ、やっぱりなるちゃんは丁度よかったんだ? 夜勤もあるから家に帰ってうるさく言われることないし」
適当な結婚相手に都合がよかった。そう言った柊斗の言葉にも納得だった。
「そういうこと。だから正社辞められると俺も困るんだよ。夜勤やって、ガツガツ稼いでくれればこっちがなにか買い与える必要もないし、夜はいなくて気が楽だし」
「子供ができたら金は入らないし、家にはいるしってことか」
「最悪だろ? 結婚だって38くらいでするつもりだったんだぞ、俺。それが10年も早まってそれだけでも頭が痛いのに、更に子供なんて有り得ねぇ」
「でも、本人は仕事続けたいんじゃなかった?」
「そう。アイツは辞められないよ。プライド高いし、俺にお世話になるなんて絶対嫌だろうからな。今日だって仕事辞めるかパートになるなら子供作ってもいいよって言ったら、両方はダメかって打診してきたし」
「仕事辞めるなら子供作ってもいいって言ったの!? そんな気ないのによく言ったね」
瑞希は心底驚いたように声を大にさせた。身を乗り出した瑞希に、柊斗は鼻で笑う。
「絶対仕事辞めるなんて言わないってわかってるからな。それに、俺も一応子供を育てる意思はあるってところはみせておかないとだろ? これでも俺、いい夫演じてるんだから」
「まんまと騙されてるなるちゃんもなんだかねぇ……」
「騙されてる自覚がないのが1番幸せなんだよ。だって、不満なんかないだろ? 優しく声をかけて喧嘩もしなくて、近所でもおしどり夫婦で有名だ。朝のゴミ出しも積極的にやるし、母親よりも嫁の味方をする。世間一般の主婦が望んでる理想の夫像じゃねぇか」
「確かに……。努力してるのは認めるわ。でも帰ったらまた子供の話ってわけね」
「今日は成美、夜勤だから大丈夫」
「あぁ、じゃあ今日はデートか」
思いついたように言った瑞希。柊斗は勢いよく事務所の方を振り返り、「ばっ、お前! 職場で何言ってんだよ!」と声をひそめた。
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