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同じようにチラリと事務所に目を向けた瑞希。しかし、人影も誰かが出てくる様子もない。
「違うの?」
「……違わねぇけど、バレたら俺の努力が水の泡だぞ」
「なるちゃん邪魔なんでしょ? ならもういいんじゃないの、バレても。彼女まだ若いんでしょ? いくつだっけ」
「23」
「じゃあ、賞味期限まであと7年あるわけじゃん。乗り換えたら?」
「そう簡単にいったら苦労しねぇって」
「もう1年くらいになる? 付き合って」
「いや、7ヶ月目か……。この前、半年記念ってやつやったばっかだわ」
「え? 柊斗が半年記念なんてやんの!?」
「やるさ。誕生日もクリスマスも結婚記念日もな」
「なるちゃんと被ったらどうするの?」
「成美の場合、仕事があるからなんとか乗り切れる」
「よくバレないよね……」
女好きの瑞希も柊斗の周到さには脱帽する。7ヶ月もの間、別の女性と不倫関係を続けているにも関わらず、あの勘の鋭そうな妻に全く気付かれていないのだから。
瑞希も何度も二股、浮気を繰り返したがその度にバレては散々な目に遭ってきた。それが面倒で、最近の瑞希の女性関係といったら専ら一夜限りばかりである。
「世の中の男がなんで不倫や浮気がバレるかわかるか? 詰めが甘いからだ。じゃあ、女は不倫をしないのかっていったらそういうわけじゃない。圧倒的に男の方がバレる確率が高いんだよ。女の勘はなめない方がいい。
妻に不満が募れば行き着く先に不倫がある。いい夫を演じて、たまには妻も抱く。妻が満足してる内は、よそに女がいても気付かれない」
「……うーん。俺、どっちの子も大事にしてたけどなぁ」
「お前の場合、人数いすぎて予定被りとかあったろ? 時間ずらして、早く切り上げて、結果それで疑われてんじゃねぇか」
「あぁ、そっか。俺、1人の子と長くいると疲れちゃうんだよね。女の子は可愛いんだけど、あんまり好き好き言われちゃうとまぁ、飽きるよね」
「ないものねだりだな」
「だねぇ。柊斗も本気の恋愛ってヤツ、聞いた事ないけど」
「自分の方が本気になるんてありえないだろ? 俺は常に優位でいたいんだよ。お前もそうだと思ってたけど?」
「俺は違うよ。なんならちょっと、憧れる。その人だけ好き、みたいなの。俺、女の子は皆好きだけど、好きの種類は皆一緒だから」
物心ついた頃から、女性は皆可愛く見えた。幼稚園児の時の先生も好きだったし、同じひまわり組のあかねちゃんも、隣のクラスのまみちゃんも。当然、自分のことを好きだと言ってくれる女の子は全員可愛く思えたし、好きだった。ただ、たった1人だけを強く愛する気持ちがあるということは全く理解ができなかった。
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