おしどり夫婦

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 ドラマや漫画の世界にだけ存在している感情なのだと思っていた。だから、付き合っていた彼女が泣いて怒る気持ちも、好きだから結婚したいという気持ちも瑞希にはわからない。  柊斗には自分と似たようなものを感じていた。別に特別な気持ちがなくても好きという感情はあるし、可愛い女の子を可愛いと思えるしなんの不自由もない。しかし、自分と似ていると思っていた柊斗が結婚すると言った時には、なんだか嬉しさよりも寂しさの方が勝った。  その柊斗が妻のことを邪魔だなんて言う。瑞希にとってそれはとても喜ばしいことだった。どうせ今の不倫相手も顔がよくて若いから性欲の捌け口として使っているだけだとわかっている。  それは瑞希と似たような状況である。また同志が戻ってきてくれたような心強さを感じた。 「そんなの知ったところで面倒だろ。女だって裏切らないとは限らないんだ。世の中、1番信用できるのは金だ」 「言えてる。俺、今女の子よりも欲しい時計があんの」 「新作出たな、ロレックス」 「それ! 400万だって。もう100万安かったら即決だったのに」 「いつもなら買うじゃん」 「俺、去年車買ったばっか」 「そうだったな。俺も先月オメガ買ったしな。今回はパス」  目を細めて遠くを見つめる柊斗。いつの間にか小学生の群れはいなくなっていた。瑞希は、吸い終わったタバコを本体から抜き取った。 「なるちゃん、そういうのなんも言わないの?」 「何が? 買い物?」 「うん」 「言わねぇよ。向こうだって自分で好きなもん買って、美容に金かけてるし」 「だから美人なのか」 「……まぁ、顔だけはいいよな」 「スタイルも」 「……まあ。でも30だぞ?」 「全然20代に見えるじゃん」 「去年まで20代だからな。でも30の大台に乗ったら無理。もう女として見れない。それで子供でも産んでみろよ。子供が出てきた所に突っ込むとか考えただけで吐き気がする。……気持ちわる」 「おぉ……。俺、全然子供いても平気だけど」  さすがにそこまで女性の賞味期限というものに厳しいと思っていなかった瑞希は、瞼を持ち上げながら携帯灰皿の中に熱の取れたタバコをしまった。 「子供いても平気なの? お前、そこまでいくと病気だな」 「いやいや、子供産んだことのある女性にしかない魅力っていうのもあるのよ。当然人妻にしかない魅力も」 「あー……だから成美がいいってこと?」 「いや、なるちゃんは単純に俺がタイプ」 「わかんねぇな。まぁ、とりあえず今日は若い女に癒されてから考える」 「癒しになるんだ?」 「なるよ。すげぇ可愛い。頭悪くて俺のいいなりで物だけ与えてれば機嫌よし。愛想もいいし、素直だし、やっぱ女はバカなくらいが可愛いよなぁ」  バカにしたような口調にもかかわらず、可愛いと思っているのは本当のようで、柊斗はだらしなく頬を緩めた。
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