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仕事を終えた柊斗は、メッセージを確認した。コミュケーションアプリを開けば、可愛い彼女から連絡が入っていた。
『柊くんお疲れ様! りりはもうレストランに向かってるよ。会えるの楽しみ』
ハートマークがふんだんに使われていて、柊斗はふっと頬を緩めた。無理やり慣れない絵文字を使う成美のメッセージとは全く違う。成美からのメッセージはいつもどこか業務的だった。
甘えることも下手、愛想を振る舞うことも下手、加えて自分の意見だけはハッキリ言うのだから可愛気の欠片もないと柊斗は思う。
母さんやツレに対しての外面はいいんだけどな……。
そう思う柊斗は、職業柄による成美のコミュケーション能力には気付いていた。しかし、彼氏となり夫となった柊斗には心を開いた分、より素の成美に近かった。
車に乗り込み、待ち合わせのレストランへ向かった。近くのコインパーキングへ駐車させ、目的地に着けば着飾った莉々花が立っていた。
「待っただろ。悪かったな、仕事が長引いた」
「ううん、全然! 柊くんに会えると思ったらいくらでも待てるよ」
そう言って顔を綻ばせた莉々花。眉の少し下で切り揃えられた前髪はふんわりとカールし、全体も緩くパーマがかかっていた。大きな丸い瞳にぷっくりとした唇。アイドルのような容姿は、他の男性達の視線をも奪う。
成美とは全く異なる魅力を持つ女性だが、見た目は必須だという柊斗にとっては合格ライン以上であった。
2人、赤ワインで乾杯をする。帰りは最初から代行を使う予定だった。
「先週、柊くんに会ったのにまた今週も会えて嬉しいな」
「俺もだよ」
「成美さんに感謝しなきゃ」
きゃっきゃとはしゃぐ莉々花に、柊斗はふっと口角を上げた。
こんなふうに俺と会っていながら、職場では後輩として成美と平然と接してるんだからやっぱり女は怖ぇな。そうひっそりと柊斗は思う。
有馬莉々花は2年前、成美が勤める整形外科病棟へ配属された後輩看護師である。覚えが悪く、散々主任や師長からも叱られていた莉々花の面倒をよくみてやったのも成美だった。
仕事ができて他看護師や医師からの信頼も厚い成美。莉々花はすぐに成美に憧れを抱き、懐いたのだった。
プライベートでも交流を持ち、ランチへ行ったり、時には少し遠出もした。美しく毅然とした成美は女性からの支持も厚い。そんな成美に少しでも近付きたいと背伸びした時もあった。
成美と同じ化粧品を使い始めたり、美容院を同じところへ変えた。髪だって肩より少し上まで切った。けれど、どんなに手を伸ばしても童顔の莉々花が成美のようなスレンダー美人に追いつくことはなかった。
そんな中、柊斗の職場仲間を呼んでのホームパーティーが開催され、成美に招かれた先で柊斗に出会った莉々花は、成美の夫である柊斗が欲しくて堪らなくなった。
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