おしどり夫婦

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 莉々花はスマートフォンを取り出し、スケジュールアプリを開いた。看護師専用のアプリがあり、夜勤や早番などの勤務を設定する事ができる。  成美の勤務も共有しており、莉々花には彼女のスケジュールが筒抜けである。 「成美さん、5日後も夜勤だよ。柊くん、また会える?」 「5日後っていつだっけ? 週末? それは無理だな。同僚と約束がある」 「えー……」 「俺も忙しいんだよ。我儘言うならもう会えないけど?」 「え!? ち、違うの! 我儘じゃないよ! 我慢できるもん!」  慌てて声を張った莉々花に柊斗はふっと笑うと「嘘だよ。俺も会いたいけど、職場仲間を蔑ろにするわけにもいかないからな。莉々花は理解があって助かるよ」と言った。  柊斗にとって莉々花はとても扱いやすい女だった。  勘が冴えて頭の回転が速い成美とは違い、いくらでも嘘で誤魔化せる。5日後の同僚との約束だって完全なる嘘だった。  莉々花は素直で愛くるしく、可愛い。一緒にいて癒されるが、最低1週間は距離を空けないと疲れてしまう。  我儘もおねだりも適度にされるのがいいのだ。頭の悪い会話に付き合うのも楽ではなかった。若くて肌艶、ハリのある体を堪能できたらそれでいい。30代となった柊斗も週1くらいのセックスが丁度よかった。 「そういえば成美さん、先月で30歳になったね」 「そうだな。莉々花が教えてくれたプティントンの春コフレってヤツ、すげぇ喜んでたよ」  柊斗は食事をしながらそう言った。4月生まれの成美の誕生日プレゼントにいつも奮闘する柊斗。そんな悩みを見越して莉々花の方から提案したのだ。 「3月に発売される限定の春コフレがあるの! ベージュやオレンジ系が多い成美さんは、赤とかピンク系のメイク道具って自分じゃ買わないと思うから、プレゼントであげたら喜ぶと思うな」  女性が喜びそうなもの、まして成美が喜びそうなものなど思いつきもしなかった。ありがたくその提案に乗り、柊斗は3月から春コフレを予約し、誕生日当日に手渡した。  泣きそうな顔をしながら喜んだ成美は、早速職場にまで一式使用してフルメイクで嬉しそうに出勤していった。 「そうでしょ! 成美さんに似合うと思ってたの! あのコフレを使ってメイクした成美さん、凄く綺麗だったな」  恍惚の表情を浮かべた莉々花。あの全ての人間を魅了させるような美しさを持つ成美が、新作コフレで更に美しく見えた。  そんな美人で完璧な成美の夫、柊斗は今自分とデートをしている。そしてこの後抱かれるのだ。そう考えたら、全身をとんでもない快感が包み込んだ。  ああ、たまんない。私が選んだ誕生日プレゼントを何も知らずに職場で見せびらかせた成美さん。あんなに美人で仕事もできるのに、旦那さんが私を抱いてるとも知らずに笑顔で私に話しかける成美さん。可哀想な、成美さん。どんなに綺麗でも仕事ができても若さには勝てないのに。  莉々花は心の中でそう成美を嘲笑った。
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