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シャワーを浴びた莉々花がベッドへ戻ると、自分のスマートフォンの画面を覗いている柊斗の姿が目に入った。
なんだか機嫌がよさそうで、莉々花は嬉しくなる。バスローブを羽織っただけの莉々花は柊斗の隣に座り、肩に頭を預けた。
「ねぇ柊くん、りりのこと好き?」
「ん? 好きだよ。好きじゃなきゃ抱かないでしょ?」
「じゃぁ……成美さんのことも?」
「成美は妻だからな。義務みたいなもんだよ」
柊斗のその言葉に、背筋がゾクゾクとする。
成美さんは義務で、私のは愛情。早く別れて私と結婚すればいいのに。私の方が好きなのに、なんでいつまでも成美さんと結婚生活続けてるんだろう。
莉々花は唇を尖らせた。自分と同じ安物のボディーソープの香りが柊斗からして、この時ばかりは柊斗が自分のものになったような気分になった。
「成美さんはいいなぁ。何でも持ってて」
「何でもって?」
「美人だしスタイルもいいし、仕事もできるし、柊くんだって持ってる」
「おい……俺は物じゃねぇぞ」
眉間に皺を寄せて、莉々花の方を向く。その顔がまた男前で、莉々花はきゃっと目を瞑って柊斗に抱きついた。
「だってぇ。りりもこんな素敵な旦那さん欲しいもん」
「そ?」
そりゃ素敵に見えるだろうな。こっちは毎日努力してんだから。顔だけはいいんだから、お前だってそんなに努力しなくても素敵な旦那さんは寄ってくるよ。その中からちゃんと選べる気はしないけど。
そう心の中で呟きながら、柊斗は優しく微笑む。
「ねぇ……成美さんとは別れないの?」
「あー……まぁ、そう遠くないかもしれないな」
「え? ほ、ほんと!?」
意外な柊斗の言葉に、莉々花はぴょんっとベッドのスプリングを利用して膝で飛び跳ねる。空中で膝を折りたたんで、正座した状態で着地すると、両手をマットレスにぽすっと置いた。
「うん。でも成美には言うなよ?」
「い、言わないよ……」
「もし莉々花が余計なこと言って俺達の関係がバレたら慰謝料が発生するし、成美が絶対別れないって言うかもしれないし」
「……え? なんで? 不倫してるの知ったら成美さんなら別れるって言わない……?」
莉々花は頃合をみて成美にそれとなく柊斗の関係を仄めかそうと思っていた。大切な夫が不出来だと思っていた後輩に取られたと知ったらどんな顔をするか見てみたいと思っていたのだ。それをきっかけに別れてくれたら、柊斗は自分だけのものになると信じていた。
それなのに、自分の計画とは全く異なることを言った柊斗に首を傾げる。
「考えてみろよ。成美だぞ? もし俺らが会ってることを知ったら、俺らが1番嫌がる対応をするはずだろ。それは、離婚せずに俺と莉々花から慰謝料だけぶん取ること」
「……あ、そうかも……」
りりに嫉妬した成美さんが、りりと柊くんを結婚させまいと絶対に離婚しないって言うかもしれない。
柊斗に納得させられた莉々花は大きく頷く。思惑通りの反応に、柊斗は満足そうに微笑んだ。
「だから、莉々花はおとなしくしてて。綺麗に別れられたらまた教えるから」
頭の悪いお前に動かれると厄介なんだ。おバカさんは、その顔と体だけ俺に提供してな。
優しく優しく心の中で呟く柊斗は、早速成美と別れるための計画を練り始めた。
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