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帰宅した柊斗は、電気を点けて綺麗に片付けられた部屋を見渡す。爽やかな香りが鼻を抜けた。
帰ってきて綺麗な家があるのはいいな。洗濯物も終わってるし。1人暮らしの時と差程変わらない生活費で家のことをやってくれる家政婦がいるんだから、結婚も悪くないって思ったけど……まぁ、子供が欲しいなら仕方ないよな。
子供ができたら、こんなふうに綺麗な状態を保てないわけだろ? 家事に育児に頑張るからって言ったって、仕事もしながらじゃ絶対どこかおざなりになる。
子供に手がかかって俺の生活が乱れるなら本末転倒だな。
こっちだって努力していい夫を演じてるんだから、家のことをちゃんとやるのは当たり前じゃね? 当て付けみたいに完璧にこなされても、俺より稼ぐことなんて一生かかっても無理なんだから、自分の能力は最大限活かして俺に尽くすべきだよな。だから、これも当然。
そう思いながら冷蔵庫を開けた柊斗。3種の料理を取り出した。それからビニール袋を開くと、およそ自分が食べられるであろう量だけスプーンですくってビニール袋の中に入れた。
炊飯器からも白米を茶碗1杯分しゃもじですくって袋に放り込む。まだほかほかに熱い白米が、冷蔵庫で冷やされた煮汁で中和されていく。
使ったスプーンを皿に入れたままラップをかけて、おかず類を冷蔵庫に戻すと、茶碗、箸、平皿を食器棚から取り出して流水で濡らした。しゃもじも炊飯器の中に入れっぱなしにした。
食洗機の中に入れておけば、いかにも家で食事をしたかのように見えた。
はい、証拠隠滅。薄ら笑を浮かべた柊斗は、スーツを脱いでクローゼットにしまってあるスプレータイプの消臭剤を吹きかけた。
莉々花の香水やホテルのボディーソープの匂いが移っていたら困るのだ。
シャツを脱いで速やかに洗濯機の中に入れる。もう一度シャワーを浴びて、普段の香りへと上書きする。
体を拭いたバスタオルで洗濯機に入れたシャツを包んだ。これでもう匂いから不倫が疑われることはない。
別れると決めたからには、完全に別れられるまで用心しないと。あの成美のことだから、勘づかれたら面倒なことになる。莉々花のように簡単じゃない。
あー……めんどくせぇ。やっぱり頭のいい女はめんどくせぇな。
成美も莉々花くらいバカだったら、俺がこんなに神経使う必要もなかったのに。
柊斗はため息をつき、隣の地域は明日がゴミの日だからそっちに出すか、と考えながら先程まとめたビニール袋に目をやった。
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