攻撃開始

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 瑞希はソファーの上にだらーっと倒れ込み、盛大なため息をついた。    わかってはいたけど、勝手なヤツ……。平和な時は、あの横暴さが面白くもあったけど、こんなに巻き込まれたら全然笑えないし。  怒りに震えながら目を閉じる。自然とソファーの上で貧乏揺すりをするほど怒りは収まらない。  そんな中でも自分の働きを思い返した。2回目のホームパーティーでちゃんと成美と関わった日。1人で雨宮家を訪れた日。成美と一緒に並んで歩いたコンビニへの道。初めてデートをした待ち合わせの喫茶店。花をプレゼントする度に見せる成美の笑顔。反対に柊斗のことを話す時の寂しそうな顔。  色んな成美の表情を思い出した。不思議と憤りは少しずつ収まり、同時にギュッと目頭が熱くなった。  最後の方は、会う度にいつも笑ってくれていた。楽しそうに話してくれた。さっきだって学生時代の話で盛り上がった。  ……楽しかったな。あれ、全部嘘かぁ……。俺が騙されちゃうくらいなんだから、とんだ名演技だよな。酷いなぁ……。  仰向けになった瑞希のこめかみ辺りがツツッと温かく濡れる感覚がした。自分でも驚いて指先で触れる。目の前にかざせば光を反射させている。  無意識にこぼれた涙の存在に、思わずははっと笑う。  右腕で両目を覆い、1人だけの空間で「……だせー。けっこう本気じゃん、俺」と呟いた。心が抉られるようだった。  計画だとわかっていても成美の笑顔がまた見たいと思い、喜びそうなことを考えた。デートも成美が好きそうなところを探した。想像していた成美の表情が見られたら満たされるような気がした。  柊斗との計画が終わったら、この時間が自分だけのものになると思って浮かれた。それが何もかも嘘だった。  好意なんて微塵もないのに、まるで好意のある振りをしてその気にさせて、最後はあっさり切り捨てられた。もう少しで手が届くと思っていたものが全て幻だった。  そこまで考えて、ようやく柊斗が成美にしたことと同じだと気付く。好きでもないのにその気にさせて結婚までした。挙げ句、不倫をでっち上げて慰謝料をとってから捨てようとした。 「あー……最悪だ」  ズッと垂れた鼻汁を啜りながらポツリと呟いた。  初めて今まで関係を持った女性達が浮気を知って泣いて怒る意味がわかった気がした。  そりゃ怒るよね……。  瑞希は腕をどかしてじっと天井を見つめた。30秒ほど微動だにせず、瞬きすらもせず思考も一旦止めた。  それから両手を裏返して耳の横に置く。思い立ったように両足をバッと上に挙げると、反動をつけてくるんと回り、その足でソファーの上に着地した。
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