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しゃがみ込んだ状態の瑞希は、ソファーの上で跳ねたスマートフォンを手に取った。着信履歴を遡り、電話をかける。
暫く呼び出し音が鳴ったあと、「何時だと思ってるんですか」という不機嫌極まりない声が聞こえた。
「ああ、ごめんね。寝てた? それとも奥さんと営み中?」
「切りますよ」
「待ーって! 今、大事な用!」
「大事な用がある人間の態度じゃないんですよ! 子供が起きたらどうするんですか!」
「ああ、そうだね。気が利かなくて悪いね」
しれっと言った瑞希に電話の向こう側の周は軽く舌打ちをした。それを聞き流した瑞希は「ねぇねぇ、周くんさ。お兄さん紹介してよ」と言った。
「は!? この前探偵を紹介したじゃないですか!」
声だけで歪んだ表情が容易に想像できる。アリマホームの情報を知りたくて以前周と会ったのだが「個人情報なので教えられません。知りたければ対価を支払って相応のところに依頼して下さい」と突っぱねられたのだ。
周の兄が弁護士だという話は瑞希が社会人になって数年後、兄が就職したと言った周から聞いた。今回もその経由で探偵を紹介してもらったのだ。
依頼料は痛かったが、当然自分で調べるよりも遥かに有力な情報が手に入った。それも音声のみは成美に渡してしまったがコピーを取っておいてよかったと胸を撫で下ろす。
それとは別に調査資料は全て瑞希の手元にあるのだ。全ての情報を渡したわけではない。
しかし、今はそれよりも現状をどうするか考えなければならない。
「うん。探偵はもういいんだよ。欲しい情報は手に入ったから。でもさ、それよりもっとまずい状況になっちゃって」
「はい?」
「俺、訴えられちゃうかもしれない。だから、弁護士紹介して」
「はぁ!?」
先程の柊斗と同じ程の大声で聞き返される。周には当然計画のことは話していなかった。そんなことを言えば探偵を紹介するどころか今後、瑞希の話すら聞かない気がしたからだ。
「ちょっとまぁ……やらかしてね」
「さようなら」
「待って! 周! 頼むよ! 俺懲役つくかも!」
「何してんですか! 絶対やだ! 関わりたくない! どうせ女性絡みでしょ!? うちの兄、そっち専門じゃないんで」
「それはお兄さんに相談するから紹介してよ」
「嫌です」
「そこをなんとか!」
夜中の押し問答が始まる。瑞希も成美と争うつもりはないが、今後のために何か対策を練らなければと思った。いつまでも後悔したり落ち込んでもいられない。
成美に莉々花の情報を渡したのだ。きっと成美の方から詳細を聞くために連絡してくるはずだと考えた。
このまま諦めるなんて俺らしくないもんね。本気になっちゃったんだって気付いちゃった以上、軽蔑から嫌いくらいまでは昇格できないかなとひっそり思考を巡らせていた。
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