32862人が本棚に入れています
本棚に追加
7月29日 木曜日
街中にある10階建てのビル。その中に存在する法律事務所。生まれてこの方、弁護士など依頼したこともなければ関わったこともない成美。信用のおける友人達にほんの少しだけ経緯を話し、弁護士を紹介してもらった。
40代前半の男性、谷村達也は実績も申し分なく、成美の友人の1人が2年前離婚調停を依頼した際に世話になった人物だった。
40代とは思えぬ若々しさと物腰の柔らかさから、女性のクライアントからも人気だ。そんなことよりも、絶対に失敗できない今回の案件を無事に乗り越えられる弁護士にお願いしたいと成美は思っていたが、1ヶ月前に会った時に話し振りで信用できそうだと納得して依頼をした。
「お久しぶりです」
「お久しぶりです。お掛け下さい」
笑顔で事務所内の個室に案内された。成美が腰掛けると谷村が「早速始めましょうか」と言った。
前回訪れた時には、瑞希と柊斗との会話の音声、それから柊斗と莉々花のメッセージのやり取りの記録しかまだ証拠がなかった。
初回の1時間無料相談を使って話を聞いてもらったのだ。
「他の証拠も集まったら連絡します。あと……もし可能でしたら、調査をお願いしたいのですが」
「調査? ご主人のですか?」
「いえ……」
顔を伏せた成美が依頼した調査結果も出ているはずだった。
成美は録画した動画とラブホテルへ出入りする写真を追加で提出した。
「……素晴らしいですね。中々これだけの証拠をご自分で用意されてくる方は少ないですよ」
「……賢い人なので、大変ではありましたけど」
「そうですね。心労も絶えないことでしょう。ですが、これだけ証拠が集まっていますから、ちゃんと離婚はできます。慰謝料請求もできますよ」
「よかったです……」
成美はほっと胸を撫で下ろした。それから「あの……依頼していた調査の方はどうなりましたか?」と尋ねる。
谷村はしっかりと頷き「こちらも準備は整っています。調査結果を確認していただき、宜しければすぐにでも内容証明を作成いたしましょう」と言った。
成美は少し心が軽くなった気分だった。谷村と今後の流れについて話をすると、成美は礼を言って事務所を後にした。
……谷村さん、驚いてたなぁ。
成美は慰謝料請求額について谷村と相談した時のことを思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!