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春の詩
毎年、三月になると、桜の木から、春川凛には聞こえてくる。
あの――小さな春の詩が。
初めて聞いたのは、小学校の入学式のときだ。少女が歌っているところを見たのは。
鈴をころがしたような凛とした歌声は、凛以外には聞こえないらしい。
真っ白なワンピースを着て、太い桜の木の枝の一つに腰掛けて、歌っている、あの少女。
なんと言っているのかはわからない。少女がこちらを向くこともない。けれど、なんとなく聞き入ってしまう、その歌声。
凛は、その不思議な少女のことがずっと気になっていた。だが、話しかけることはできないでいた。
ふと見ると、つぼみをつけ始めた桜の木に、少女は腰掛けていた。今年も、やってきたのだ。
少女の歌声を聞くことは、凛の密かな楽しみだった。
だが――そんな日々も、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。
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