アポカリプスに花一輪

8/8
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 日が昇るころには、案の定近所はちょっとした騒ぎになっていた。無理もない。誰も訪ねる人はいなかったとはいえ、この辺で一番大きな、その上妙な噂のあるお屋敷。それが一晩のうちに燃え落ちてしまったのだから。  火元が何だったのかは、僕の周りの誰も知らなかった。でも、ついに屋敷の主が精神を壊し、自分の屋敷に火を放ったんだと、誰が言い出したわけでもなく皆信じているようだった。そんなはずはないと言いたかったけれど、それを信じてもらえる空気ではなかった。屋敷の中に人がいたかどうかは、誰に聞いても教えてもらえなかった。いや、それも誰も知らないようだった。  その夜。僕はこっそりと屋敷……があった場所を覗きに行った。ある程度の場所から立ち入り禁止のテープが張られていたが、それでも屋敷の様子を確認するには十分だった。  いつも丘の上から見下ろしていた二人の城はもはや原形を留めず、更地のようになってしまった。二人の世界のすべてだった場所が、奇麗さっぱりなくなってしまった。  その景色は僕に、寂しさよりも納得感を与えてくれた。 あの炎は、もはや必要なくなった古い世界を廃棄する終末の炎だった。その煙は、宇宙の仲間に向けて上げた狼煙であり、ついでに僕にも、無事に二人が旅立ったことを伝えてくれたのだ。  今地球を出発しました、二人で新しい世界に行きます、と。  本当のところは分からないのだけれど、僕の世界ではそういうことにしておいたって良い。僕は星空を見上げ、幸せになってね、と呟いた。  おあつらえ向きに、昨日の炎みたいな赤い星が輝いて、何となく、夏休みが始まるんだなあ、と思った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!