アポカリプスに花一輪

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 学校から帰ってきて宿題を済ませた僕は、あのお屋敷の事をお母さんに聞いてみた。 「ねえ、丘から見えるお屋敷って、誰が住んでるか知ってる?」  この街限定で顔の広いお母さん、僕の世界のほとんどすべてを知っている人なら、彼女の事を知ってるんじゃないかと思ったから。そんなことを聞けばお母さんは不思議に思うだろうけど、毎日同じ場所から星ばかり見て楽しいのかといつも不思議がっているから今更だ。 「ああ……あそこね。急にどうしたの?」 「ずっと空き家だと思ってたんだけど、明かりがつくところが見えたから気になって」  僕は嘘じゃないけれど、それか全部じゃない理由を言った。会ったこともない人を噂だけで判断するのはよくないんだけど、と付け加えて、お母さんは屋敷の人について教えてくれた。 「結構前から頭のおかしい女主人が一人で住んでるって噂でね、でも周りの知り合いの誰も顔も見たことないんだって」 「一人なの? いつから?」 「けっこう前から。だから別に何か事件があったとかそういうわけじゃないんだけど、みんな気味悪がってあの辺あんまり近づかないのよね」  だからあまり詮索しない方が良いよ、と言うお母さんは、噂を信じすぎるのは良くないという言い分の割に、自分はすっかり信じているみたいだった。  あの人は宇宙人でもなんでもなく、ただの頭がおかしい人。あのお屋敷に一人で住んでいて、お嬢様なんて本当はいない。この街では、僕が暮らしてきた世界では、そういうことになっている。でも本当にそうなんだろうか。  僕はもうあの丘に行くのはやめようか、と思ったけれど、他に星が見られるところなんて思い浮かばなくて……いや、そんなの言い訳だ。僕はあの人が宇宙人だと思うことを楽しんでいる。だからあの人がおかしい人ではないと思いたくて、今日もまたあそこに行ってしまうんだ。
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