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「いや、本当にごめんね」
広い日本家屋のようなお屋敷だった。そこで私にお茶を出してくれたのは、さきほど最初に顔を合わせた青年である。つやつやの黒髪に、金色の眼。金色の装飾がついたキラキラの髪飾りに、無骨な赤い甲冑?のようなものを見に纏っている(頭には何も被ってないので顔はばっちり見えているのだが)。
彼は、自らをタケミカヅチと名乗った。
漢字で書くと建御雷神。要するに、日本神話に出てくるバリバリの神様である。
果たして彼には、青白い肌にじっとりと肌に貼りつく長い黒髪、薄汚れた白いワンピース、といういかにも幽霊ですといった見た目であるはずの私がどう見えているのか。普通の人間ならば、私の姿を見ただけで“おばけええええ!”と悲鳴を上げて逃げていくのだが。
あと、この場所は一体何なのだろう、死んでるはずの私が普通のお茶を飲むことができるだなんて。
「俺達の仲間の神様……アマテラスって知ってる?がまた天岩戸にヒキコモリしちゃってさ。弟が土下座して謝っても全然許さないってモードみたいで、困っちゃってて。それで強硬手段に出るために、召喚陣でアマテラスを庭にひっぱり出そうとしたんだけど」
「そうしたら、私が引っかかってきちゃった、と」
「その通り。……日本酒とビールを間違えるなんて、何でそんな馬鹿なことが起きるんだろうね。お酒の神様なのにお酒の種類を間違えるなんて、スクナヒコナもヤキが回ってるよなあ……」
その名前もどっかで聞いたことがある、と思う。いずれにせよ神様の名前だ。アマテラスに至っては、知らない人などいないのではないかと思うほど有名な神様ではないだろうか。弟というのは、ひょっとしてスサノヲノミコトあたりだろうか。
「……此処は、神様の世界なの?」
お茶を温かい、なんて思うのはどれだけぶりだろう。なんせ、自分が死んでから何十年過ぎたのかもわからない状態。ブラック企業が倒産して、ビルが廃墟になってからもそこに地縛霊として居ついてしまっていたほどの私なのだから。最近は降霊術で呼ばれない限りは、そこに面白半分で立ち入ってきたユーチューバーなんかを呪って過ごしていた私である。
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