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いつもならば、私が何もしなくても近づいた人間達は邪気に充てられて倒れていくし、勝手に血を吐いて死んでいく。生きているもの全てが憎くて仕方なくなっていた私は、それを見てゲラゲラと笑い飛ばしてやるのが常だった。勿論、そんなことをしても最終的に私の気が晴れるわけではないが、怨霊となった私にとって唯一の楽しみ、あるいは気が休まる時間はそれしかなかったのである。
しかし、神様の集団というのは本当であるようで、この世界の彼等はいくら私がうろついていてもちっともおかしくなる様子がないのだった。
「……ごめんなさい、私のせいで!」
やがて、天岩戸から出てきたという、目が覚めるほど美しい女性は。私の手を握って、本気で謝ってきたのだった。長く銀髪にしめ縄のような髪飾り。きっと彼女が、かのアマテラス様なのだろう。
「スサノヲ君には私がきっちりゲンコツとお説教をしておきましたから!本当に、本当にごめんなさいね、巻き込んじゃって!」
「わ、私は別に……」
「貴女が元の世界に帰ることができるよう、みんなで方法を探しますから!もう少しだけ待っていてくださいね」
「は、はい……」
呪いの塊であるはずの私の手を握ってぶんぶん振ってもケロっとしているあたり、神様の力は凄い。むしろ、こうまでされて私が浄化されていかないのが不思議なほどである。日本では、歴史に残る悪霊だなんて呼ばれて恐れられるほどの私の力も、神様たちにとっては塵芥に等しいということなのだろう。
「……そう、してくれるのは嬉しいのですけど」
アマテラスが本気で私の為を思ってくれているのはわかっている。それでも私は、その言葉に簡単に是と言うことはできなかった。何故なら。
「帰っても……私にはもう、帰るところなんて。どうせ、あの廃墟のビルでまた、地縛霊を続けるだけだし……」
「あ、そっか……忘れてたけど貴女、元々は幽霊なんだものね」
「はい……」
お互い困ったように顔を見合わせたその時、それなら此処にいて貰えばいいよ、と声がかかった。振り返れば、タケさんが歩いてくるところではないか。
「たまに、この世界に迷い込んでしまう人間がいるのは確かだ。彼女もそうすればいい、行先が決まるまで」
「た、タケミカ君。でも……」
「いいよ、俺が面倒見るから」
「…………うん」
その時。何故、アマテラスが煮え切らない顔をしていたのか。
私がそれを知るのは、もう少し先のことであったのである。
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