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人の罪の重さが、現実の“あの世”でどのように裁かれるのかはわからない。
死んだあとに犯した罪は、生きていた時の罪と同じように裁かれることはないのかもしれない。でも、私は。
「本当にいいのですか?」
アマテラス――アマさんは、私を薄暗い坂道の前まで案内して言った。この先に、黄泉へと続くあの“黄泉比良坂”があるのだと言う。
「自分から地獄に行くなんて。死ぬ前の罪ではないし、ひょっとしたらエンマさんだってもう少し寛大になってくれるかもしれないのに……」
「ありがとう、アマさん。でも、私は決めたから。怨霊として自分がやってしまったこと、タケさんという神様を苦しめてしまったこと……ケジメをきちんとつけないと、私の気がすまないんです」
「でも……」
日本神話では、なかなか横暴だったりワガママだったりすることの多い描写をされがちな神様たち。でも実際はみんな、間違えることもあれば正しいこともあって、苦しんだり悲しんだり笑ったり喜んだり、傷ついたり傷つけられたり――なんてことはない、人間となんら変わらない心を持つものばかりだった。
それもそのはずだろう。人間は、そんな彼らをモデルに作られた存在なのだから。
私達はそんな彼らに見守られて、今日を生きてきた存在。――忘れてはいけないのは、彼らにもまた心があるという事実で。
「バッドエンドなんかじゃない。タケさんにも、よろしく伝えて」
私は優しい女神様の手を握って、頷いた。
「何かも遅すぎたけど、それでも……その先にハッピーエンドはあるって、タケさんやみんなが教えてくれた。私、生まれ変わります。時間がかかっても必ず、新しい自分に」
怖くないと言えば嘘になる。それでも私は私のために、長い坂道へ足をかけたのだった。これが長くさまよった私にとって、確かなハッピーエンドになると信じて。
いつか生まれ変わって、あの人に見せるのだ。
傷つけ合うだけが人間じゃない――彼らの愛を受け継いだ者が、確かに此処にいるということを。
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