潜入の日

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食堂の中は何やら色んなにおいが混ざり合っているが、不快感はない。むしろ食欲をそそられる。思っていた以上に中は広く、人が多い。喋り声はざわめきになっている。 カウンターの奥に広い厨房が見える。カウンターに人が列をなして、食事を受け取ると空いている席を探して歩き回る。 「先に席確保しよっか」 少し声を張ったマリから提案を受ける。確かに食事を注文するより席を確保する方が苦労しそうだ。辺りを見渡してみると空いている席は……なさそう。マリも見つけられないようで苦笑いを浮かべている。 「出直すか?」 「そうだね、もうちょっとしたら空くから外ぶらつこうか」 「あれ?マリさん」 一度外に出ようと扉に手を掛けたところで、マリが声を掛けられた。釣られて俺まで振り返った。一体どこから声がしたのか辺りを探しても分からなかったが、マリは直ぐに気が付いたらしい。 「あっ、カーム君!」 マリの声に手を挙げて反応する同年代くらいの男子。男にしては長く、気品すら感じさせる金髪。カームと呼ばれた男子のテーブルに同席しているのは、男子と女子が一人ずつ。マリに気づくとみんなで手招きをしている。 「同じ学年の子たち」 一言だけで簡単に紹介するとマリは手を掴んでテーブルへ引きずっていく。本当にもう強引なんだから。あまり広くないテーブルを詰めて、作ってくれたスペースに譲られるままに座った。 「場所なかったでしょ?」 カームと呼ばれた男子が察したように話かけてきた。 「そうなんだよねぇ。丁度出直そうかって話してたところだったの」 「ところで誰だ、そいつ?」 もう一人の男子が頬杖を突きながら聞いてくる。どこか不機嫌そうに見えるのは気のせいじゃなさそうだ。大人しく名乗り出ようとした時、マリが割って入ってきた。 「あっ、紹介するね。イオ・サーランド君。帝国からの噂の留学生」 「あぁ、君が噂の。僕はカーム・セルリアン・イースガラム」 「……イースガラム?」 気になり復唱してしまった。するとカームは含み笑いを浮かべた。 「叔父が王様」 「王族かよ。こんなところにいていいのか?」 「僕も留学生だから」 こいつが噂の。留学生とは言えど無警戒だな、こいつに何かあれば国際問題だぞ。
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