潜入の日

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「護衛は?」 「無理やり断ったよ。まぁそう上手くはいかないけど」 そう言って周りを見渡してみせる。 「わがままだな」 「よく言われる。それで機嫌の悪い彼がウィズ・サンバース」 「悪くねぇよ」 否定するのならせめて愛想よく言ってほしい。薄水色の短髪、小柄な割に体は引き締まっている。そして眉間に皺が寄っている。 「で、こっちの子が……」 「ロゼ・ヴァーミリオンです」 深紅の長髪、背筋がピンと伸び礼儀正しさが滲み出ている。さっきから無表情だけど、一応生きてはいるらしい。 「ロゼ……さんも貴族か何か?」 「ロゼで結構です。それに貴族じゃありませんし」 「ロゼちゃんはグランダルの騎士の家系なんだよ。イオ君と同じ」 自分のことにように自慢するマリに、ロゼは興味深そう目を向ける。 「同じ、ですか?」 「帝国騎士の家系なんだって」 「そうなんですか」 なんだかキラキラした目で見られている気がする。表情筋が硬いだけで意外と感情豊かなのかもしれない。でもめんどくさそうだから無視しておこう。 「ところで、イオとマリさんはどうやって知り合ったの?以前からの知り合いってわけじゃなさそうだけど」 カームは金髪を揺らしながら面白そうに訊ねてくる。こいつもしかしたら性格悪いかもしれない。 「それはえーっと、あはは……」 喋るなと目で訴えてくる。 「ええと、王都は初めてだから道案内頼んだんだ」 「ふーん?」 信じてなさそうだ。俺は本当のことを話しても別にいいけど、話したらマリに何されるか分かったもんじゃない。早々に話題を逸らした方が賢明か。 「こっちも色々聞きたいんだが、いいか?」 「どうぞ」 「どうしてそいつ……ウィズ君はどうして不機嫌なんだ?」 「君付けはやめろ、男に言われるとムズムズする」 一層不機嫌そうな顔になる。よっぽど嫌なことがあったのかもしれない。 「腹減ってるとか?」 「そんな子供じゃねぇよ」 「飯が美味くなかった」 「お前俺のこと馬鹿にしてんのか?」 今にも殴りかかってきそうな勢いで睨まれた。ちょっとした冗談も通じないみたいだ。 「まぁまぁ、ちょっとあってね」 何やら訳ありのようだ。同じクラスだと言うのだから、ここで無理をして首を突っ込むより、明日また学校で仕切り直した方が関係は良好に保てそうだ。 「タイミング悪かったみたいだな、俺はもう行くよ。マリ、案内助かった」 座ったばかりの席を立ち上がる。 「あっ、でもまだ謝罪が……」 「謝罪?」 カームが興味深そうに繰り返した。それを慌ててマリは誤魔化す。 「い、いや、何でもない。こっちの話だから……はは」 「ふーん」 あえて直ぐに追及してこないというのも考えものだな、どうせこの後根掘り葉掘り問いただすんだろうけど。ただ、同年代の女子に簡単に制圧されたなんて話はせめて当事者のいないところでやってほしい。 「そういうわけで。明日からよろしくな」 軽く手を挙げて挨拶をし、背を向ける。 王都の地図は入国する際にもらっているし、学校の位置も明記されているから迷うこともない。昼飯も道すがら探せば問題ない、金に困っているのはマリだけだったのだし。せっかくグランダルに来たんだし、名物でも探して堪能するか。その後で街中を探索するというのも悪くはない。留学という建前を存分に発揮せねば。
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