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「ロゼさんがトラウマを全部思い出す前に本題に入ろうか。いいよね、イオ君?」
ちょうど食べ終わったのも見計らってカームが持ち掛ける。本来そのために引き留められているのだから断る理由もないので素直に頷いた。
食器をテーブルの隅に寄せる。視線は自然とウィズに集まり、ため息を吐いてから話し始めた。
「いやぁ、大した話じゃねぇんだけどよ、こいつらと歩いてる時にバッグひったくられてよ。それでイライラしてたんだ」
騎士を目指しているとはいえど、所詮はただの人間。なんなら騎士だろうと誰だろうと、休日まで気を張っているやつなんていない。不意の一撃なんてそうそうかわせるものじゃないしな。
「それでイオ君」
「なんでそんな嬉しそうな顔ができるんだ、カーム」
仮にも友達が被害に遭っている、それも目の前で。他の三人は気にした様子がないから、普段からこんなやつなんだろう。
「地図持ってるでしょ?ちょっと貸して」
「なんで知ってるんだよ」
「地図なしでどうやって見知らぬ街を歩き回る気?」
いちいち癪に触る言い方だ。
ポケットから四つ折りにしてある地図を手渡す。それを笑顔で受け取るとテーブルの真ん中に広げた。
王都は簡単に言えば円の形をしている。北側に王宮と学園、東側と西側が居住区。中心から南側にかけて商業区が広がっている。各方面に門扉が設置されているのだが、他国の人間は南側からしか入れない。
先ほどまでは南側から北側に向かって歩いており、中心地辺りまであともう少しというところでこの店に入った。
「いいかい、僕たちは学園から真っすぐ大通りを下ってきた」
カームは学園に人差し指を置き、それから道順を示すようになぞっていく。
「その途中でひったくりに遭った。ウィズ、犯人はどっちに逃げて行ったか覚えてるかい?」
「西側、だな」
「そしてイオ君とマリさんも南側でトラブルがあったみたいだけど、その相手はどっちに逃げて行ったのかな?」
飲みかけていた水を吹き出しそうになる。
「待て、なんでそれを知っている」
「イオ君がとてもナンパをするような人には見えないし、マリさんも素直に応じる人じゃない。二人がどうやって知り合ったのか聞いた時、随分分かりやすく慌てていたから何かあったのは想像がつく。大方泥棒の犯人か何かと間違えてトラブルになったんじゃないの?」
「あはは……なんかバレバレだね」
マリは観念したらしく苦笑いを浮かべた。
「お前……嫌なやつだな」
「面と向かってそう言われるのは初めてだね。自分でも良い性格なのは知っているけど」
自覚はあるようだが満面の笑みでそんなこと言われても嫌さ加減が増すだけだ。
「それで、その人はどこへ逃げて行ったの?」
素直に答えるも癪なので思い出す振りをして時間を掛ける。それでも笑顔は変わらず急かすようなこともして来ないので、いい加減こっちが諦めるしかない。
「……西側」
カームは答えを聞いて満足気に頷く。そして地図上の西側の地区を指でなぞった。
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