潜入の日

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『ハイラント帝国とイースガラム。中央大陸にある二大国家が休戦協定を結んでからおよそ100年。両国の関係は今や良好と言えよう。物が行き交い、人が行き交う。かつての大戦は多大な被害を出したものだったが、両国の関係と共に、土地や建物、人々の心までも回復に向かっている。 そしてその平和の象徴たるがこの国、グランダル。 帝国側に属しながらも、イースガラムとの交易が最も盛んな国として日夜を問わず人々が行き交い、笑い合う。グランダル連峰に眠る豊富な資源は、両国を繋ぐ架け橋となっている。』 「……平和、ねぇ」 王都に踏み入れると、最初に目に入ったのは大きな記念碑。近付いてみれば、そんな文章が立札に綴られていた。 この文章を考えた人は心からこの国を想っているのか、それともユーモアあふれる皮肉屋か。 平和という言葉に嘘はない。ハイラント帝国とイースガラムの架け橋というのも間違いじゃない。人々が行き交い、笑い合うというのも、少し周りを見渡せば事実だと確かめることができる。だが少し考えれば、架け橋にならざるを得なかった、という答えに辿り着く。 西に帝国、東にイースガラム。北のグランダル連峰を超えれば海。背水の陣とはまさにこのこと、両国どちらかの機嫌を損ねれば、グランダルという小国はあっという間に侵略されていたことだろうに。 それでも両国の顔色を窺いながらこうして上手いことやっているんだから、この国の外交は優秀だ。 「さてと」 重い荷物を背負い直し、歩き出す。長旅ももう少しで終わる。そしてこれから新しい生活が始まる。
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