4人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、店長さん。安心してください、泥棒捕まえましたから!」
店長と呼ばれたおじさんと目が合う。苦痛に歪む顔で訴え掛けると、直ぐに事態を呑み込んだようだ。
「お嬢ちゃん、そいつは泥棒じゃないよ」
「えっ、でも」
「もっとごついおっさんだったから」
そう言われて、女子は恐る恐る顔を覗き込んで来た。先ほどまでの活力はどこへやら、分かりやすく引きつっている。
「……おっさんに見えるか?」
「しょ、将来的には……」
「そうか、それはよかった。大きく道を踏み外さなければおばさんにはならないからな」
「ごめんなさい!私勘違いしちゃって!」
「誤解が解けたならそれでいい。それより言いたいことがあるんだけど」
「な、何かな?お金はあんまりもってないからその……」
「……動けないからどいてくれ、腕がそろそろ限界なんだ。あと重い」
そう言うと、直ぐに離れてくれはしたが、後頭部を叩かれた。
「一言余計!」
誤解された上に追い打ちを掛けられるとは思いもしなかった。文句の一言でも言ってやろうと起き上がるが、恥ずかしそうに俯く姿を見たらその気も萎えてしまった。
腕や首を回して確認してみるが、変に痛むところはない。あの状況でも綺麗に技を掛けていたらしい。
「泥棒、追いかけなくていいのか?」
「……誰が泥棒だか分かんないし」
その通り。また走り出したら、新たな被害者を出さないためにも全力で止めるつもりだった。
「あー、そのなんだ坊主、このお嬢ちゃんも悪気があったわけじゃねぇんだ。今度うちの店来た時に安くしてやるからよ」
「まぁそういうことなら」
おじさんに差し出された手を取り立ち上がる。土埃を払いのけ、荷物を背負い直す。
「じゃあ、オレ行くとこあるんで」
いつの間にか集まってきた野次馬にも見られているし、これ以上の厄介に巻き込まれるのはごめんだ。早々に立ち去ろうとしたところで、手首を掴まれた。それもまたすごい力で。
「ま、待って!」
待つ以外の選択肢が用意されていないのですが。
「あの、私はちゃんと謝らないとだから、その……」
「金はないんだろ?」
「お昼代くらいなら大丈夫だから。……食費を削れば」
ボソッと言ったつもりなんだろうけど丸聞こえだ。それに金のないやつから金を搾り取る趣味もない。しかしこの女子が納得しない限り手首は離してくれなさそうだ。手首を握り潰されるのは先か、何か納得できる提案を思いつくのが先か。……なんだこの二択。
「……分かった。じゃあ、道案内をしてくれ。王都に来るのは初めてなんだ」
「そんなことで良いの?」
「良いも何も、どうせ誰かに道聞くつもりだったから。だから手首離してくれ」
「あっ……」
恥ずかしそうに慌てて手首を離す。そんな乙女っぽい反応されても全くときめけないのは、手首にガッツリ手形が残っているからだろうな。……これちゃんと消えるよな?
一通りの茶番が終わったところで、野次馬は散り散りになっていく。その女子はわざとらしく咳払いをして、改めて向き直った。
「それで、行くところって?」
街の遠くの方に目を向ける。流石にここからじゃ見えそうにもないけど、なんとなくの方向に向けて指をさす。
「グランダル王立騎士養成学校」
最初のコメントを投稿しよう!