潜入の日

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― 街中を歩いてみて改めて感じる、あの記念碑はきっと愛国心からの言葉だったんだろうと。道は舗装され、区画は綺麗に整理されている。人は多いが道幅も広いため窮屈には感じない。たまに漂って来る香ばしいにおいや、店先に売られている新鮮な野菜、色々な店が立ち並び、活気あふれる、というのにふさわしい街並みだ。 「なるほど、それじゃああなたが噂の帝国からの留学生なんですね」 道すがら、学校を目的地としている理由を話した。しかし随分と気になる言い方をする。 「噂?」 「私のクラスに帝国から留学生が来るって話があったので。なんでも帝国騎士としての将来を見込まれて見聞を広げるとかどうとかで」 「噂って怖いなぁ」 あることないことがよくそんなにも広まるもんだ。むしろないことしか広まってないけど。 「違うんですか?留学生はみんな優秀って聞くんですけど。現に隣のクラスにイースガラムから来てる留学生は超が付くほど優秀ですよ」 「他の留学生がどうなのかは知らないけど、オレは違うよ」 「随分はっきり言うんですね」 まだどこか期待している節があるから、この際伝えておこう。 「ええと、帝国の騎士学校の成績が悪すぎて、単位修得のために留学させられた。……どう?」 「それはまぁ、あはは……」 乾いた笑いで誤魔化される。 「というか敬語やめなよ、クラスメイトになるらしいんだし」 「それもそうだね、じゃあ止める!」 切り替えが早いことで。 「そういえば自己紹介がまだだったね、私はマリ・コリンシア。グランダル王立騎士養成学校の二回生。出身はグランダルの田舎の方で今は寮生活中」 「そしてお金に困っていると」 「兄妹が多くて仕送りがちょっとね」 後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべる。 「今時騎士になりたいなんて珍しいな」 「戦争なんてここ100年起きてないしね。グランダルなんて小国、もしも戦争に巻き込まれでも即滅亡だよ」 「そのもしもの時に備えたいと?」 そう訊ねるとマリは肩をすくめて否定した。 「まさか。この国で戦争を起こしたい人も、起きると思っている人も誰もいないよ。ただなんて言うのかな……お金のためと言いますか……」 恥ずかしそうに笑っている。 「安定はするからな」 「警備の仕事は無くならないしそこそこにお金を貰える。兄妹たちには好きなことやってほしいしさ」 「金だけなら商人でもよかったんじゃないか?ほら、小国とは言えど交易は盛んだし」 「頭が良ければその道もあったんだけど……。腕っぷしには自信があるから」 「それはよく知ってる」 身を持って体感したばかりだ。その上正義感まで溢れているし、さぞかし優秀な騎士になるだろうに。
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