潜入の日

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「そ、そんなことより今度は君の番!」 どうやら何か恥ずかしいことを想い出したらしく、わざとらしく話題を逸らした。掘り返してもよかったけど、手首に残る手形が目に入って余計なことはしない方が賢明だと判断した。 「イオ・サーランド」 「……それだけ?」 マリは不服そうに首を傾げた。 「質問には答える」 「じゃあ騎士を目指している理由は?」 「ええと、元々騎士の家系で」 「帝国騎士の家系なんて、なんかかっこいいね」 「そんな素敵なものじゃないよ、他に選択肢がなかっただけで。それに帝国騎士なんて何十万もいるから、帝国じゃよくあることだし」 「夢が壊れるなぁ」 苦笑いを浮かべる。事実、珍しくはない。帝国程の大国になれば人数は必要だし、コネなんて当たり前のようにある。 「帝国といえば、魔術技術に力を入れているんでしょう?」 質問には答えるといったけど、よくもまぁ初対面の人間にポンポンと質問が思いつくものだ。 「まぁね。これもその一種」 そう言って手形のない方の手首に付けている腕輪をわざとらしく見せびらかしてみる。 「なにそれ!?」 興味ありそうだからちょっと自慢してやろうかと思ったらもの凄い勢いで腕を掴まれた。もったいぶっていたらこっちの腕にも手形が残りそうだから早々に説明をする。 「魔術道具の試作品。見せるから離してくれ」 「あっ、ごめん!見たことないからつい……」 パッと手を離し、恥ずかしそうに後頭部を掻いて誤魔化す。好奇心の塊みたいなやつだな。 腕に跡が付いていないことを確認してから、腕輪にそっと手を添える。すると腕輪から柔らかな光が溢れ出す。添えた手には確かな感触、両手をゆっくり離していく。 「……タオル?」 「タオル」 何もなかったはずの手に白いタオルが握られている。マリはしばらくポカンと口を開き、次第に瞳の中に輝きが増していく。 「すごいすごい!なにこれどうなってるの!?」 「ちょっ、腕!離せって!」 再度腕を掴まれてぶんぶん揺すられる。すぐさま注意しても今度は離してくれなかった。 「ねぇどうして!どうしてタオルが出てきたの!?」 「だからこれが!魔術、道具なんだって!」 言いながら舌を噛みそうになる。ただそんな努力も虚しく、まるで聞こえていないように一人で興奮している。結局マリが落ち着くまで腕を揺さぶられ続けた。
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