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第12話 槍試合開幕
「ジョストって、知っているかい?」
アーサーに日本支部へ呼び出された竜也達。
「はい、騎士が馬に乗って槍で突くか突かれるかですよね?」
「映画でもあったね、槍試合って私は何をすれば?」
竜也とジークリンデがそれぞれ答える。
「竜也君の言う通りだ、ジークリンデ君は竜也君を乗せて戦う」
アーサーから、竜でやるジョストだとかいつまんで説明してくれた。
「俺達は、槍試合だけ出ればいいんでしょうか?」
「支部長、向こうでは他にも色々やるんでしょ?」
「そうだね、君達で参加できるのは後はドラゴンレースかな?」
「ドラゴン達がコースを走る競馬ね♪」
ジークリンデが解説する。
「他の、竜騎士サッカーや空中ポロとかは?」
「すまない、団体競技の参加は日本支部は出れないんだ」
アーサーが竜也に謝る。
「え~? 私達、結構ポテンシャルあると思います!」
ジークリンデが不満を漏らす。
「いや、竜也君が千年ぶりに出た最も新しい日本人竜騎士なんだ」
「え? 俺の外にいないんですか?」
「いないんだ、君が唯一の日本人竜騎士なんだよ竜也君」
「それなら、団体競技は無理ですね」
竜也は納得した、竜騎士は竜との婚姻でなる者だ。
そして、竜は必ず女性がなる存在なので竜騎士と竜のカップルに男児のみしか
生まれず竜と婚姻しなければ竜騎士の系譜は絶える。
「日本の竜騎士は、家でも展示しているが平安時代から君まで出ていないんだよ」
「日本には竜がいないって、お父さんが言ってたのはそう言う事か」
ジークリンデが納得する。
「まあ、何はともあれ向こうでは頑張ってきますよ」
「そうね、二人でキャメロットの街も見て回ろう♪」
「ああ、円卓の騎士博物館とか行きたいね」
「二人とも、観光のお金までは出せないのでそれは自腹で頼むね」
「そう言えば支部長って、もしかして英国王室関係者?」
ジークリンデが気になっていた事を尋ねる、アーサーと言う名はイギリスの国王である竜騎士王アーサー三十世と同名だからだ。
「ああ、遠い親戚だよ♪ イギリスはもう、アーサーって名前多すぎさ♪」
「それでも王家の血筋ってすげえな、アーサーさん」
「おだててもお金は出ないぞ竜也君、妻の財布の守りは固いんだ」
「あ、ご愁傷様です」
竜也達は呑気な会話をしつつ、大会に向けての支度を始めた。
「ここがキャメロットか、楽しみだな」
「ご飯は、中華や和食の方が良いかもね」
竜也とジークリンデは、スコットランドにあるイギリスの首都
キャメロットの空港に着いた。
そこは、空を見上げれば色取り取りのドラゴン達が飛び交っていた。
「空港でさえこの賑わいか、街に行けばもっと盛り上がっていそう」
「そうね、早く入国の手続きをしてホテルへゴー♪」
「二人共、待っていたよ♪」
竜也達は入国手続きを済ませると、見慣れた金髪イケオジが二人を出迎えた。
「あ、お父さん? 何でここにいるの!」
「リンちゃん、会長だからだよ」
待っていたのはクラウスだった。
「竜也君は、日本支部に預けたとはいえ私の従騎士なんだよ?」
「とにかく、お世話になります」
「ちぇ~! たっちゃんと二人で海外旅行気分だったのに」
「竜也君、娘がいつもすまないね」
「それはノーコメントで」
クラウスと合流した竜也達はその案内で空港を出て会場近くのホテルへと着いた。
「そういや、竜騎士があらゆる言語や文字を理解できるって本当だったな」
「うん、ドラゴンは言語も万能だから♪」
初めて外国へ来た竜也の目には、文字は日本語訳が付いて見え会話も日本語で聞こえてと言語問題に一切困らない事に気付いた。
「ああ、私達の祖先でもあるジークフリードは人間以外の言葉も理解できたしな」
「もしかして、毎朝周囲がやかましかったのは人だけじゃなかったのか?」
「多分、野良猫や雀とかがしゃべってたんだと思う」
そんなやり取りをしつつ部屋へ案内された。
「もしかして、お父さんも一緒?」
部屋の広さから家族用の部屋だと勘付いたジークリンデが残念そうに聞いてくる。
「そういう旅行は大人になって、自分達の稼いだお金でやりなさい」
クラウスが残念がる娘を諭す。
「リンちゃん、日本に帰ったら国内で旅行に行こうか?」
「うん、日本なら安い宿でも料理の味は最低保証されてるしね♪」
竜也が誘うとジークリンデが笑顔になる。
「二人とも、孫の顔を見せるのは高校卒業してからで頼むよ」
クラウスが釘を刺すがそれを聞いたジークリンデが獣のように笑う。
「言質取ったからね、お父さん♪」
「竜也君、助けてくれ娘が怖いんだが?」
「えっと、竜騎士は伴侶である竜に寄り添うべしという規約があるので無理です」
「お父さん、仕事放り出してドイツの妻の元へ帰りたくなったよ」
娘婿になる竜也が娘の味方になった事で、クラウスは降参した。
翌日、竜也達は開会式が行われるサッカースタジアムへとやって来ていた。
自分達以外にもずらりと並ぶ竜騎士達を見て、竜也は壮観な気分であった。
「いよいよか、燃えて来たぜ」
「頑張ろうね、たっちゃん♪」
竜也は気合いを入れていた。
用意された舞台に、一人の男が登壇した事で万雷の拍手が起こった。
「ありがとう、皆♪ 竜騎士王アーサー三十世の名の下に開会を宣言する!」
全身を黄金の竜の鎧に身を包んだ男、英国の王であり竜騎士の中でも鎧を黄金へと昇華させた王の位階に至った二重の意味での王である男が言葉を発した。
会場は再び、万雷の拍手に包まれた。
「凄いな、あの人から強さだけでなく優しさも感じる」
「うん、お父さんよりも強いよあの王様」
「俺も、ああいう強さと優しさを兼ね備えた人を目指したい」
「一緒に頑張ろうね、たっちゃん♪」
竜也とジークリンデは、アーサー三十世から刺激を受けた。
竜也達以外の竜騎士達もそれぞれに影響を受けていたのが二人には感じられた。
開会式が終われば、試合会場へと移動する。
竜也はフリーデンとなり、ジークリンデに乗って空を飛ぶ。
辿り着いた会場は、ドデカい牧場と言う印象だった。
「これは、竜が馬みたいに走る感じかな?」
「私、走りでも負けないよ♪」
槍試合の場所は、走るコースが柵で仕切られている馬上で行う槍試合と同じシステムだった。
「ただ今より、第一試合が始まります選手はコースに着いて下さい!」
女性の声によるアナウンスが流れ、選手達はそれぞれのコースへと向かう。
フリーデンも、シュヴァンツ・ランツェンを構えジークリンデに跨り位置に着く。
対戦相手は、フリーデンには馴染みのあるラーメンの丼などに描かれる緑色の龍に跨った中華風の緑色の鎧を纏った騎士であった。
「へ~♪ あれが噂の日本のラッキーボーイか♪」
「あなたも、私と言う妻を得られたラッキーボーイでしょ♪」
自分が乗る龍に笑顔で窘められて喜ぶ緑の騎士。
「ああ、明鈴♪ 日本と台湾のラッキーボーイ対決だ♪」
緑の騎士は刃先が蛇のように波打つ蛇矛を構えた。
騎士達が戦うコースから離れた場所には実況席のテントが立っていた。
「さて、いよいよ始まりました竜騎士槍試合♪ 今年は何と、千年ぶりに日本から
誕生したという竜騎士フリーデンに注目が集まっていますね♪」
黒スーツを着たショートカットの日本人の女性がマイクを持って語る。
「資料によりますと、フリーデン選手も対戦相手の緑牙選手も高校生と若いカップルが羨ましい! あと、試合開始です!」
実況の女性がアホなコメントをしている間にサイレンが鳴り、試合が始まった。
双方のドラゴンが駆け出し、緑牙は蛇矛を上段に構え振り回して打ち込んで来る。
フリーデンも、ナイトランスであるシュヴァンツ・ランツェンを構えて防ぐ。
「まだまだ! 激流旋っ!」
緑牙の蛇矛に水が集まり、鞭となって振るわれる!
「ならこっちは、シュヴァンツ・シュトルムッ!」
フリーデンの槍から闇を纏った黒い竜巻が吹き荒れ、水流の鞭を押し返した。
「今だ、胴っ!」
フリーデンが押し返した勢いでナイトランスを竹刀のように振り、緑牙の胴を打って駆け抜けた。
その瞬間、試合終了のサイレンが鳴り響きフリーデンは勝利を収めた。
「おおっと! フリーデン選手、初出場で一勝を挙げた~!」
実況の女性が驚きの叫びを上げた、よほどフリーデンが勝ったのが意外だったのだろう。
観客側からも驚きの声と共に拍手が上がった。
「う~ん、俺達はそんなに下馬評が低かったのかな?」
「そんな感じね、私達はまさにダークホースって感じ♪」
コースから離れて変身を解いて竜也とジークリンデは語り合った。
一方、負けた緑牙達も変身を解いて休んでいた。
「明鈴ごめん、負けちゃった」
緑牙の素顔は茶髪に眼鏡を掛けた大人しそうな少年だった。
彼の名は馬温、台湾の代表の竜騎士だ。
「大丈夫、温の仇は私がドラゴンレースで取るわ♪」
温を慰めるのは緑色のジャージ姿の気の強そうな美少女だった。
彼女の名は柳明鈴。
洞庭湖の龍王の娘の末裔であった。
「うん、ありがとう」
「けど、帰ったら稽古だからね?」
「そ、それは勘弁してくれよ~!」
温の悲鳴が木霊し、悲喜こもごもの一回戦が終了した。
「何だか、向こうでさっき対戦した相手が叫んでるな」
「向こうは気が強そうだったから、可哀そうに旦那さん尻に敷かれてるのよ」
ジークリンデは自分を棚上げにしていた。
そして、二回戦で水色の騎士とドラゴンに相対した時にジークリンデは嫌そうな顔になった。
相手のドラゴンも嫌そうな顔をしていた。
「ジークリンデ! あなたやっぱり出て来たわね不良娘!」
水色のドラゴンが試合前だというのに叫ぶ。
「ああ、出たわ忌まわしき中学時代の堅物学級委員!」
ジークリンデはうんざりした。
「え? もしかして同じ中学?」
「そして寮のルームメイト、アメリアが相手なんてちょ~最悪!」
対戦相手のドラゴンはアメリアと言い、ジークリンデの中学時代の同級生だった。
「あの不良娘、絶対倒す!」
「あの堅物ジャガイモ女は、絶対に叩きのめす!」
こうしてフリーデンは、全く予期していなかった相棒の因縁の相手との一戦に挑む事となった。
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