第21話 気持ちの重さ

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第21話 気持ちの重さ

 「夏休み楽しかったね、たっちゃん♪」  新学期の教室でジークリンデが竜也に声をかける。  「そうだな、色々と濃い夏休みだった」  竜騎士の大会に三校戦に赤熱のライブ、竜也達は夏休みの出来事を思い出す。  「よ♪ 三校戦の立役者♪」  烈太が竜也達に声をかけて来た。  「そっちは中東でテロ退治の英雄だろうが」  「へ♪ 相棒の実家を掃除しただけさ♪」  烈太が笑うと、彼の机から金色のオイルランプが飛び出して来る。  「旦那様、訂正を求めます!」  ランプの蓋が開き、アラビア風の衣装を着た黒髪に褐色の美女が出て来て叫んだ。  「げげ、イブリン! 急にランプから出て来んなよ!」  「いいえ、妻として聞き逃せません! 最愛の妻イブリンと訂正して下さい!」  美女の名はイブリン、烈太が契約しているランプの精だ。  体からチョロチョロト炎が噴き出る事からイフリータと言われる女性型の炎の魔神 だろうと思わるイブリンに対して烈太が頷く。  「わかった! 我が最愛の妻イブリン、夫として命じる大人しくしてくれ!」  「はい、旦那様♪」  目から炎を燃やして憤っていたイブリン、烈太の言葉で一気に鎮火した。  「こいつには敵わねえ」  ランプに戻ったイブリンに烈太は尻に敷かれていた。  「まったく、人の事を言う前に自分も尻に敷かれてるじゃねえか」  「おいおい、ブーメランは投げ合うもんじゃねえよ親友♪」  「たっちゃん、私って重くない? もう少し、気を付けるね?」  竜也に嫌われたのではないかと不安になるジークリンデ。  「いや、大丈夫だから! リンちゃんと離れる方が辛いから!」  感覚の共有でジークリンデの不安を察して否定する竜也。  ジークリンデは自分の席へと戻った。  「贅沢な悩み、こっちが羨ましい!」  「え? 何で?」  「あのねえ、感覚や能力の共有に互いに相手以外を恋愛対象としないし相手以外と子供を作れない上にあなたが死ねば岸野君も死ぬってガチ過ぎて引くわ!」  昼休み、マルタと出会ったジークリンデがマルタを幻想科の学食へと連れ込んで悩みを相談という愚痴をこぼした結果がこれだ。  二人でパスタを食べながらジークリンデの相談という愚痴を聞くマルタ。  「やっぱり重いんだ私」  落ち込むジークリンデ。  「その重さを受け入れてくれた岸野君を信じなさい、私もドラゴンに生まれて学君とガチガチに結ばれたくなったじゃない! ドラゴンって狡い!」  マルタも愛が重い少女であった。  「えへへ♪ 羨ましがられちゃった~♪」  喜びながらパスタを平らげるジークリンデ。  「ぐぬぬ~! 私も学君と永遠に添い遂げたい!」  喜びながら去るジークリンデに嫉妬しつつ、マルタはパスタをヤケ食いした。  ヤケ食いで体重が増えたマルタが、ダイエット山籠もりで休むのは後のお話。  「大丈夫か、嫁さん一人で飯に行ったけど?」  教室で烈太が竜也に尋ねてくる。  「う~ん、リンク繋げた感じだと鉄鋼寺さんとパスタ食ってる」  「いや、リンクってお前らすげえな?」  「まあ、命含めて一蓮托生だから♪」  「お前今、さらっとヤバい事言ってるぞ?」  「そっちも、相手と似たような契約してるだろ?」  「ああ、あいつに魂預けてる♪」  烈太がそう言うと、金のランプが突然現れて烈太を中に吸い込み窓の外から飛び出して行った。  「ありゃ早退だな、先生に言っておくか」  そう言って竜也もジークリンデが用意した大きい弁当箱を開ける。  「いただきます♪」  弁当箱の中身はラムの焼肉とごはんと肉が多めであった。  「まあ、帰ったら話をしよう」  竜也も弁当を食い、それぞれの昼食時間が過ぎて行った。  午後の授業を特に問題もなく過ごした二人に訪れた、放課後。  「リンちゃん、一緒に帰ろう!」  「え? 良いの?」  普段と違い、竜也の方からジークリンデに声をかけられて戸惑うジークリンデ。  「良いも何も、俺達は夫婦なんだろ?」  「……そ、そうだけど!」  「悪い、窓開けて!」  竜也の言葉にクラスの男子の一人が空気を読んで窓を開ける。  「竜結っ!」  教室内で突然竜也がフリーデンに変身した。  「え? 何で変身してるの?」  ジークリンデには驚きしかなかった、彼女が戸惑っているとフリーデンが ジークリンデの手を取り足を払いお姫様抱っこをする。  「飛んで、帰るよリンちゃん♪」  フリーデンが駆け出し、ジークリンデをお姫様抱っこしながら窓から飛び出した!    フリーデンが背中から漆黒の翼を広げ空を飛ぶ、まるでジークリンデと再会した時に彼がされた事をやり返すような形で二人はファフナー邸の庭へと降り立った。  「ただいま、リンちゃん♪」  変身を解き竜也に戻る。  「……お、おかえりなしゃいっ!」  ジークリンデは頬を赤く染めながらテンパっていた。  「取り敢えず、入れてくれる?」  「は、入って~~~!」  ジークリンデは慌てて家の中に入り、竜也もそれに続いた。  ジークリンデは、自室へと駆け込むと荷物を投げ出してベッドへとダイブした。  「うう~っ! たっちゃんが優しいし、ドキドキする~っ!」  ジークリンデは胸がときめきながらも悶々とする、もはや気まずさは消えていた。  竜也の方もファフナー邸に用意された自室で、荷物を置いて着替えてくつろぎながら感覚の共有でジークリンデの悶える感覚を感じていた。  「やべえ、自分から踏み込んでみたけれどこれは後で反動が怖いな」  だが、その反動をきちんと受け止めよう自分は誰のヒーローかと自問する。  その答えは、自分はまずジークリンデのヒーローだと竜也は思った。  ジークリンデと竜也、互いに居間へと移動し食卓に座る。  「俺はリンちゃんのヒーローだから、リンちゃんの重さを受け止めるよ」  「私、重いよね」  ジークリンデが重いという言葉に反応して呟く。  「重い事は悪くないよ、軽く雑に扱われる方が嫌じゃね?」  「……それはそうだけど」  竜也の言葉に戸惑うジークリンデ。  「重さにも良し悪しがあるし、リンちゃんの重さは悪くない♪」  「今は俺の方がリンちゃんに重くなってるけどどうかな?」  「急に積極的になって怖いよ!」  「リンちゃんの心を助ける為に戦ってるんだよ」  「ちょっと、何言ってるのかわからない」  「俺の今の敵は、リンちゃんの心の中の不安だからその不安を攻撃してるんだ」  竜也の敵はジークリンデの不安、心の中の敵には言葉と心で突撃しなければダメージを与えられない。  「私、ワガママだよ? 重い女だけど良いの?」  ジークリンデが問いかける。  「俺もワガママだし重い男だよ、リンちゃんの重さを俺は受けるから俺の重さを受けてくれよ♪ お互いにシーソーみたいにさ♪」  彼女の問いに竜也は応える。  「私にできるかな?」  ジークリンデはまだ不安がる。  「できるよ、リンちゃんは俺が好きになった俺のお嫁さんだから♪」  ジークリンデの心をズキュンと撃ち抜くべく、言葉の弾丸をぶっぱなす竜也。  「ちょっ! 凄い恥ずかしいんだけどっ!」  ジークリンデが頬を染める、竜也の言葉の弾丸は当たりはするがまだ撃破には届かない。  「俺に今までくれた重い愛を今度は俺が重く返すから、そしたらまた俺に重い愛でのしかかって来てくれよ♪」  愛する彼女の心を撃ち抜くべく言葉の銃撃を続ける竜也。  「今そんな事言って来て、たっちゃんは卑怯だよ!」  頬を染めながら叫ぶジークリンデ、彼女の心も必死に壊れたバリヤーを張りなおしてくる。  「リンちゃんの為なら卑怯な事もする、隙を見つけたら俺は迷わず突く!」  竜也も必死に攻める、この心の戦いは負けられない。  「私が死んだら、たっちゃんも死んじゃうんだよ? それでも良いの?」  自分からそう言う契約を竜也に結ばせていたのに、ジークリンデが問いかける。  「一緒に死ねるなら構わないよ! 俺もリンちゃんがいなくなって寂しかった、リンちゃんがいない人生を生きて行くのはもう嫌だ!」  竜也も本心を叫ぶ。  「できる限り長く一緒に生きて、一緒に死のうよ♪ 死んだ後の事はわからないけれど、俺達なら来世でも一緒になれるさ♪」  竜也が優しくジークリンデに来世も生涯を共にしようと語る。  「……何よ、たっちゃんの方が私よりも重いよ♪」  「重くて何が悪い、人生は重さだらけだよ♪」  二人が互いの気持ちを叫び合い、段々と二人とも顔に笑顔が出てくる。  「改めて聞くけど私、重くても良いんだよね?」  「改めて約束するよ、重くても俺はリンちゃんが欲しい」  竜也が改めてジークリンデに誓う。  「私の事、嫌いにならない?」  「お互い、悪い所は出たら改善すれば良い」  「そこは普通にイエスって言う所だよっ!」  「いや、俺がリンちゃんの事は好きなのは変わらないから前提が間違ってる」  「たっちゃん、そういう所は細かい!」  「リスクマネジメントは男女互いにしっかりやろうよ」  「普段は子供っぽいのに、何でそんな所は大人っぽいの!」  いつの間にか、ジークリンデがいつもの調子に戻っている。  「クエストのクリアは頭を使わないと」  「いや、RPGじゃないんだからね!」  「人生は壮大な長編RPGだよ、攻略難易度がクソ高すぎる」  「ゲーム脳かっ!」  小学生時代のように言い合う竜也とジークリンデ。    「ところで晩飯どうしようか?」  「たっちゃんの家で食べる、今日は用意する気力がない」  「じゃあ家に帰るか、荷物取って来る」  「置いてって良いよ、今日はこっちで泊まって行って」  「え? ちょっと何か企んでる?」  「別に、次は私のターンだから覚悟してよね!」  「それは、トラップカード発動して良い案件?」  「駄目、容赦なくダイレクトアタック叩き込むから♪」  ジークリンデの瞳が、獲物を狙う狩人の目になった。  「自分で選んだ事だけど、逃げるコマンド選択したくなってきた」  竜也はジークリンデの尾を踏んだ事に気付いた。  「回り込むから! ドラゴンからは逃げられないんだから!」  竜也はジークリンデから逃げられなかった。  「たっちゃん、私の事受け止めるって言ったよね?」  「言ったけど、こっちのHPとMPを回復してからで!」  「私は満タンだから駄目、たっちゃんの回復を封印っ!」  食卓から立ち上った竜也をジークリンデも立ち上がり尻尾を巻き付けて捕獲した。    ジークリンデの尻尾に捕まり、彼女の部屋まで引きずり込まれた竜也は倒された。  竜也とジークリンデの絆のレベルが上がった、二人の未来が少し明るくなった。
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