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罪人と断罪者
烟る煙草と、床板に赤く広がるオールドヴィンテージワイン。
血に混ざる二つの匂いは、皮肉にもどちらも僕の依存物だ。
“罪人”は血溜まりに蹲る僕に優雅に笑いかける。
「もう終わり?」
瞳は氷の下に埋まる湖のような青灰色。
「君は俺を断罪しに来たんじゃなかったのか?」
形のいい唇が豊かな声で言う。
見た目の美麗さを裏切る力で僕の腹を貫いた罪人は、赤く染まった手を僕に差し出した。
背中がぞわりと冷える。
この罪人に、僕では勝てない。
だが運は僕に味方した。
開け放した窓から風が流れ込み、帷が大きく揺れる。
舞い込んだ月の光に僕の影がくっきりと床に落ちた。
影は瞬き一つの間に僕を包み込み、窓から外へと放り出す。
突如二階から降ってきた血まみれの僕に、明るい提灯に照らされた花街で悲鳴が上がった。
僕はひどく損傷した体を起こし、影に引きずられるようにその場を逃げ出した。
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