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思わず目をギュッと瞑ったその時、ガチャッとドアの開く音がした。
……へ?
バンバンと肩を叩かれる。
「どうも、ありがとうございました。おやすみなさい!」
カラッとした明るい口調。さっきの妙にエロチックな雰囲気は微塵もない。
「……あ、おやすみ……なさい」
訳がわからない。
黒絵さんは「じゃ」と言うように、顔の横で手をパッと開いた。愛嬌のある表情で、俺を観察するようにじっと見ている。笑いだしそうな口元。
「……じゃあ、戸締りして下さいね……」
俺は多分、黒絵さんへ引き攣った笑顔を作り、開けてくれたドアを背中で押しながら外へ出た。
「はいはいー」
パタンと閉まるドア。暫くして鍵の掛かる音。
その音に「ホウッ」と肩の力を抜いた。
なに? なんなの? 暇なの? だから俺を困らせたいの? からかって遊んでるの?
いつも苦情の電話があって黒絵さんの部屋へ駆けつける。時間も間隔も決まってない。まちまちだ。週に二回、苦情の電話があった時もあれば、また掛かってくるんじゃなかと身構えていると、三週間も音沙汰がなかったり。
でも、黒絵さんが入居してから、なんだかんだ毎月訪問している。毎月だ。
そんな店子、他にいないぞ……。
「……帰ろ」
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