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アパートの敷地に立ったままボーッと考えている己に気づいて歩き出す。
三角屋根のレトロな門を開けてガチャッとしっかり閉める。カチとセキュリティシステムが作動する音。そこから一階五号室の玄関を見た。
以前昼間に呼び出された時、黒絵さんに「今日はお休みですか?」と質問したことがある。確か、最初に面談した時には企業に勤める会社員だと聞いてたから、挨拶ついでの会話だった。
黒絵さんは「えぇ、まぁ」なんて、言葉は濁していたけど平然としていた。
こちらもそれ以上話を広げるつもりは勿論なかったんだけど……最近呼び出される度に感じる違和感。
黒絵さんはなんと言うか……生活感が無い。
台所を使っている様子もないし、かと言ってコンビニ弁当を食べた形跡もない。だいたい男性の住まいはドアを開けると市のゴミ袋にコンビニゴミがいっぱい入ってるもんだが……。玄関に革靴があるわけでもないし、スーツが壁に掛かっているわけでもない。
いつもラフな服装でフラフラ……ふわふわ? した様子。
「…………」
一番初めに呼び出された時を無意識に思い出していた。
シャワー後のしっとりと濡れた髪。白い肌はほんのりと火照っていて、ガリガリでもなく、ムキムキでもない、柔らかそうな筋肉は程よい肉付きで細くしなやかな体。
男だけど綺麗だった。
気怠そうな表情は憂いを帯びてるように見えたし。そうかと思えば、真っ直ぐに俺を見てくる黒い瞳は内側までも見透かされそうなくらい……
自分が何を思い出していたかに気づき、ゾッとする。
頭から黒絵さんを叩き出した。
黒絵さんのせいだ。黒絵さんがあんな意味深な……エロい雰囲気漂わせるから。俺は正常。いたって正常!
そう唱えながら、大股で家へ帰った。
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