勘違い

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勘違い

「清彦君……私のこと本当に好き? どこをいいと思ってくれたの?」  そう問われ、グッと握りこぶしを作り、唇を噛んだ。  分かってるんだ。ここで彼女の目を見つめて真剣に「好きだよ」と言えばいい。君の優しくて、温和なところが好きだよって、説明を加えれば完璧なんだ。  なのに俺の口から出るのはいつもの言葉。 「……分からない……」  目を伏せたまま言うと、彼女の声色が変わった。 「清彦君って、そうだよね。最初は明るくて爽やかでとても素敵だと思ってたけど……もう私に興味あんまりないよね?」 「いや……そういうワケじゃないんだけど……」 「じゃあどういうワケ? マメに連絡してきた時と全然違うよね? 冷めたのならハッキリ言えばいいのに」  話が長引くにつれ、彼女の事を好きだと想う気持ちがどんどん小さくなっていくのが分かる。  最初の頃の気持ちと同じように好きだと言い切れたら、彼女の機嫌が直るのは分かっているのに。  もうこの時点で、俺の気持ちはかなり萎縮してしまっている。 「どっちにしろ、冷たくて連絡もくれないような人を追いかける程ヒマじゃないの。さよなら」  俺の言葉を待たず、彼女は助手席のドアを開けて車から降りてしまった。  バンと潔いドアの閉まる音。  彼女が降りた瞬間は(・・・)ホッとする。  修羅場は苦手なんだ。泣かれるのも、ギャーギャーわめかれるのも。逃げ出したくなる。そういうのは本当に苦手なんだ。  彼女は俺が「最初と違う」と言った。  でも、彼女も最初とは違ってしまった。  それを「当たり前」と押し通して、自分を正当化する。  立て板に水が流れるように、自分を正当化する言葉を吐き続ける女性に、いつも俺はゲンナリしてしまうのだ。  出会った頃の彼女はもっと謙虚だった。  俺の予定を尋ねてくるにしても、もっとおずおずとした感じで、そこが可愛くて好感が持てた。  どうして自分が好かれているのか信じられないと目を丸くして恥ずかしそうに笑う彼女は、世界中の誰よりも俺には魅力的に見えた。  なのにどうして数ヶ月付き合っただけで、 「どうしてその日、都合が悪いの?」 「どうして私を優先しないの?」 「友達が彼女より大事っておかしいよ」 「私のこと好きなら、優先してくれるのが普通でしょ」 「なんで友達と旅行? 意味分かんない」  とまで言われないといけないのだろう。
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