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俺はちょっとだけ、ほんのちょっとだけドキドキしながら尋ねた。
どういう意味でのドキドキなのか自分でもよく分からなかったが。
「うんうん」
目の錯覚か? 黒絵さんの頷き方が妙にくすぐったい。
部屋はうす暗いし、キャンドルでオレンジの光がゆらゆら揺らめいてるし、照れくさそうな様子の黒絵さんも心なしかいつもより可愛らしく見える。
いやいやいや。おかしいだろ。男に可愛いは変だろう。なんて言ったらいいんだ? いつもの人を食ったような……からかうような空気じゃないと言えばいいのか……? じゃあどんな空気なんだ?
黒絵さんはウキウキした表情でローテーブルの前にペタンと座った。きちんとした正座スタイルでこちらを見上げてくる。まるで『待て』と言われたワンコのようだ。
そんな黒絵さんに「うっ」と言葉に詰まりながら、もう一度白い箱をジッと見た。
このまま……?
立ったまま開けるべきか。座って開けるべきか。中身が柔らかいものならば、ちゃんとテーブルに置いて、両手で開けた方がいいよな……。食べてって、と言われたのだから……ここはやはり座るべきだろうか。
俺は両手で箱を持ったまま恐る恐るローテーブルの前まで進み、黒絵さんの向かい側へそっと腰を下ろした。箱をテーブルの上へ置く。
チラッと黒絵さんの顔を見て、期待のこもった眼差しに覚悟を決めて蓋をそっと開けた。
箱の中身はやはりケーキだった。ティラミスのケーキ。手作り感は全くない。俺は見て分かることを、そのまま聞いた。
「ケーキ?」
なぜ俺にケーキをくれるのか? と問うたのだ。
「マスカルポーネとクリームチーズをブレンドしてあって、濃厚かつ後味のすっきりとしたティラミス生地で……って、あ、苦手? チーズ無理だった?」
黒絵さんが急に申し訳なさそうな顔になった。
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