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道路に面した正門のセキュリティを解除して、五号室のインターホンを押す。
ピンポーン
「桜坂です」
『はぁい』
返事の後もなかなか開かないドア。
呼び出しておいて、どうしたんだろ? トイレのドアが開いたのか? まさか、漏らしてはいないだろうな? それだと最悪じゃん。
謝るのも嫌だな……。
考えていると、やっとドアが開き、黒絵さんが顔を出した。
「あ、きたきた。こんばんは」
「……こんばんは」
やっぱり切羽なんて全然詰まっていなさそうな表情。
落ち着いたトーンで一音一音ゆったりと挨拶する黒絵さんは、俺の顔を見てニンマリと口角を上げた。まるで友達が遊びにくるのを待っていたような顔だ。
「……いいですか? お邪魔します」
「どうぞ」
小首を傾げ、ドアを大きく開く。
どこのかよくわからないラフなTシャツにハーフパンツ、そして裸足。
寒くないのだろうか? でもまぁ……とりあえず服を着ていることに内心ホッとした。
なにしろ一番最初に苦情で呼び出され、黒絵さんの部屋を訪ねた時、彼は上半身裸で腰にタオルを巻いた姿だったのだ。
あの時のクレームの内容はなんだったっけ……?
もう毎回毎回いろんなクレームをつけられるから頭の中でゴチャゴチャになってしまっている。
覚えているのは黒絵さんが半裸だったこと、苦情の電話をしてきた割にはちっとも怒ってないし困ってる風でもなかったことだけ。
そう……今みたいに。
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