白状

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 俺は璃人の二の腕を掴み、少し体を押しキスを止めさせると、不安気な表情の璃人に口元だけで微笑んだ。 「怒ってないから」 「……話したいことがある」  俯いていた顔を上げ、俺をジッと見つめる。  覚悟を決めたような眼差しに「うん?」と首を傾げた。  さっきので俺の気持ちはだいぶ沈静化……いや、落ちていたのがフラットになっていた。  きっと、さっきの男と付き合っていた過去を話す気になったんだろう。そしてこれからも、元カレ(・・・)がこの家を出入りし続けるという厄介な事態を説明したいのだと思う。  俺のいない時も、上がってくる元彼。  正直、心穏やかではないが、俺も大人だ。元彼が仕事で部屋を訪ねてくるのは仕方のないことなんだ。  さっきは大人げない態度を取ってしまった。ちっぽけなプライドのために、璃人を不安がらせてしまった。今度は余裕の態度でちゃんと話を受け止めよう。そうだ、俺は器の小さな男じゃない。昔の男の存在なんてこれっぽちも気にしない。誰にだって過去があるんだから。そうやって人として成長してきて、今の璃人が存在するのだから……。  璃人が遠慮がちに俺の手を取りリビングへ連れて行く。  俺をベッドへ座らせると、その前に膝を突き、ちょこんと正座をした。  まるで俺がこれから説教でもするみたいだ。和尚さんと小坊主? その覚悟なのだろうか? 「関係なくはないんだ」 「……へ?」  元彼との三角関係だから? そういう意味で言えばもちろん部外者じゃない。当事者なんだろうけど……。過去のことならそんな深刻にならなくったって。……過去じゃないのか? 「俺の仕事自体はどうでもいいんだけど、それが原因でもあって……。まず、ごめんなさい」  璃人は頭を下げ、また俺を見た。 「清ちゃんのこと、小説の登場人物のモデルにしてました」 「……え? ええええええ? も、モデル?」 「うん。批評を受けたんだ。黒絵の書く人物は人間くささがなくてつまらないって。もっと一つ一つのエピソードでリアルな反応が欲しいって。それでずっと悩んでいて。清ちゃんを見た時、まだ若いしイケメンでスーツとかバリバリ似合ってそうなのに、私服でアパートの管理人をして、いろんなクレームに振り回されていた。でも、いつも丁寧にきちんと受け答えして、お掃除とかもしてる。見た目のイメージじゃない仕事を頑張ってる人だなって。気になって観察した。そしたら、すごく表情も豊かで、活き活きしているというか。アクションとかいちいち面白くて、俺に求められてるのはこれじゃないかって思ったんだ。だから、もっと清ちゃんのいろんな反応が見たくて、わざとクレーム作って呼び出して……」 一気に捲し立てる璃人。 「はぁ……」    ビックリしすぎて、アホみたいな声を出してしまった。 「そ、そっか。……やっぱりアレはワザとか」  クレームのはずなのに、困ってる様子のない璃人。  やたら感じていた視線。  思い出せば「なるほど」と思い当たることばかりだ。
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