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璃人の部屋は一階の一番奥だ。インターホンを押すと、「開いてます!」の声。ドアを開けると、璃人がパッと振り返った。眉をたらし、ホッとしたようなまさに安堵の表情を見せる。マジで困ってるっぽい様子。俺はビックリして靴を慌てて脱いだ。
「どした?」
璃人の後ろに小さな人影が見えた。璃人はその誰かの手を握り立ち上がる。小学生? 幼稚園? 小さな男の子だ。しかし……璃人に似ている……ような? ま、まさか……。
「ほら、ちゃんと挨拶して」
超ご機嫌斜めなちびっこ。明らかにぷーっと頬を膨らませている。
「え、り、璃人……もしかして、この子、璃人の……」
璃人がおずおずといった感じで、ちびっこから俺をチラ見する。
おいおい……そんな、マジか……。
ちびっこの背を摩り、励ますような、宥めるような感じで挨拶を促している。いつもの璃人じゃない。保護者の顔だ。
突然のことで心理的ダメージを喰らう。
しかし……。
ちびっこと璃人。明らかに様子のおかしい二人を見て、愕然としている場合じゃない。俺は膝を突き、男の子と目線を合わせた。笑顔を作って挨拶する。
「はじめまして。僕は桜坂清彦です。よろしくね? 名前、教えてくれないかな?」
「くろえゆうひ……」
「くろえ……」
思わず苗字を繰り返し、璃人を見る。
やっぱり、璃人の息子なのだろうか? 下がった眉の形なんてそのままだし……。璃人がバツイチなんて想像は一度もしていなかった。そうか、離婚して奥さんが子供を引き取ったとか。でも、その奥さんが病気で入院してしまったとか? もしかして亡くなってしまって、璃人が引き取ることになったのかもしれない。それであんな困った様子だったのか。そりゃそうだよな。子供だっていきなりお母さんと引き離されて、何年も会っていない璃人に引き取られ「今日からお父さんと暮らそう」と言われたら……そりゃ嫌だよな。不安になるのも仕方ない。
「大丈夫だよ、夕陽。とても優しい人だから」
璃人がそう言うと、ちびっこがムッとしたまま近づいてきた。
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