エピローグ 桜坂清彦という男

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   男の子はムッとしたまま、なぜか俺に抱き着いてきた。  小さな腕でギュッとされ、「お、おう」と思いながら、男の子の小さな背中をポンポンと叩く。その体勢で璃人を見つめた。璃人はすごく申し訳なさそうな顔をしている。  そうか……。  俺は璃人へ小さく頷いた。  わかったよ。俺も協力する。ふたりで子育てをしていこう。璃人とこの子を俺が守ってやらなきゃ。  己を鼓舞するも実際、決意だけでなんとかなるものでもない。  璃人は俺たちのことをどこまで伝えているのだろう? 抱き着いてきたってことは……もしかして「新しいパパだよ」とか「パパがふたりになるよ」と言ってあるとか?  そういうことだとは思うが、「というわけで、よろしくね!」なんて簡単にはいかない。これからのことをいろいろ考えなければ。  家庭を持つということになるんだから、まずは両親に璃人のことを伝えなければ……母さん、ビックリしてまた入院するかもしれない。父さんには……理解できないかもな……。  いや、俺の親ばかりじゃない。璃人の家族にも挨拶に行かなければ。大事な息子とお孫さんまでとなると、かなりの反発もあるだろうな。……正直、かなり怖いぞ……いやいや、いやいや、いかんいかん! 俺が弱気になってどうするんだ。今さっき俺が二人を守るって決心したばかりじゃないか。どんな逆境になろうとも! ……って根性論の話でもないんだよな……。  夕陽君だってまだ小さいうちは良いだろうけど、年頃になった時のことも考えておかなきゃ。「うちはお母さんはいないけど、お父さんは二人いるんだ」なんて……ドラマだったら完全にコメディだろうけど、リアルでは友達を家に呼べないレベルの特殊さだ。  それ以前にだ。小学校の保護者会だの運動会だの、これからいろいろファミリー行事が目白押しだろう。夕陽君のことを思えば、参加しない選択はないし。……それも、俺の独りよがりか? うおおおお、ヤバイ、確かにヤバイぞ。越えなきゃいけない問題は山積みじゃないか!  血が上がったり、下がったり、嫌な汗もでてきた。体温調節も追いつかず、頭をクラクラさせながら、それでも不安を抱えているだろう俺の大事な恋人と新しい家族……夕陽を安心させるように言った。 「なにも心配しなくていいからね」  腕の中の夕陽がまたギュッと抱き着いてくる。  ああ、なんて愛おしい締め付けだろう。  子供を欲しいとか、可愛いと思ったことは正直あまりない。子供は無遠慮だし、声が大きいし、想定外の行動ばかりする。世の中の親御さんは毎日本当に大変だと思う。よくやるなって。でも愛しい気持ちがあれば、馬車馬のように働き慌ただしい日々が続いてもやっていけるのかもしれない。  考えていると耳元でそっと小さな声がした。 「……ごめんさい」  ん? ごめんなさい?
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