エピローグ 桜坂清彦という男

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「あっはははは、さすが清ちゃん!」  璃人が腹に手を当て、いつまでも大笑いしている。笑い過ぎて、目尻には涙まで浮かべてやがるし。  夕陽は璃人の姉の子で、つまりは甥っ子だった。  甥っ子にしては似すぎだろ! と思ったけど、結婚式の画像を見せてもらったら、璃人のお姉さんは璃人似のとても綺麗な人だった。  今日は姉夫婦の結婚記念日だったとかで、夫婦水入らずの食事デートを璃人がプレゼントしたらしい。その間、璃人が夕陽を預かっていたというわけだ。 俺を至急呼び出したのは、壁に穴を開けてしまった夕陽をどれだけ宥めても怖がって泣くばかりで手を焼いていたから、らしい。  夕陽はもう部屋に居ない。九時過ぎに両親が迎えに来た。  風呂はもう済ませたよと璃人が言うと、お姉さんはとても喜んでいた。俺は一時間くらい遊び相手をしていただけなんだけど、靴を履いた夕陽が振り返り「きよちゃんバイバイ」と小さな手でヒラヒラされた時には妙に切なくなっちまった。これが情が移るってやつなのか。 「もういいだろー。笑いすぎだしっ」  口を尖らせて訴える。 「だって、いくらなんでも、責任感強すぎ」  まだひーひー笑ってる。 「そりゃそうだよ。璃人の息子なら、俺の息子になるだろ?」  やっと笑いを収めた璃人が、大爆笑のせいで潤んだ瞳で俺を覗き込む。 「なんだよ」  もう恥ずかしさも通り越して拗ねるしかない。どうせ俺はテンパると脳内でグルグル考える癖があるよ。
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