エピローグ 桜坂清彦という男

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「清ちゃんの息子になるんだ?」  嬉しそうな表情で確認してくる。 「それって、つまりぃ。そういうこと?」  ウルウルの目はすでにキラキラに変わってる。違う恥ずかしさを感じながら言った。 「そういうこと」  照れくさくてぶっきらぼうな口調になってしまう。  璃人はお構いなしに俺の首へ腕を回すと、可愛らしく目を閉じチュッと口付けしてきた。 「思いがけずのラッキーデイだね。嬉しいよ。それに、惚れなおしちゃった」 「呆れるんじゃなくて? それは良かった。怪我の功名だ」  至近距離でニコニコご機嫌な璃人を抱きしめ、穴の開いた壁を眺める。 「じゃあ、あの穴は記念にとっておこう」 「いいの? お隣さんにやってる声聞こえちゃうかもよ?」 「うちはそんな安普請じゃないっつーの。……あ、それか、あのサイズでニッチ棚を作ろうか」  それはとても良いアイデアに思えた。勘違いではあったけど、二人の未来を一気に見たような気がする。なにもなかったように補修してしまうより、メモリーとして残してもいいんじゃないか。  そして、浮かぶ風景。  小さなニッチ棚にある日、白い箱が置いてあるんだ。  リボンがかかった白い箱。そこにはリングがふたつ入ってる。  何気なく置いといて、璃人が気付くまで知らん顔していよう。  いつも璃人にはびびったり、ビックリしたり、オロオロ振り回されたりしている。たまには璃人にもサプライズを仕掛けてみたい。  掴みどころのない恋人へ、  ずっとここにいて、ずっと一緒にいてと願いを込めて――。  了
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