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ずんずん近づく黒絵さんの足が止まらない。
「……え?」
たじろいでいると、そのまま詰め寄ってきて驚く程密着してきた。襟元がテロンと伸びたTシャツから真っ白な鎖骨が見える。
「……な、な」
俺の肩に首を伸ばし耳のすぐ横で「スンッ」と鼻を鳴らす。
ひゃっ!?
固まったまま黒絵さんの動向を目で追う。
「シャンプー。いい匂いするね」
そのままの距離で、内緒話をするような低いトーンで静かに囁く。俺は焦りながら、しどろもどろにならないように必死で応じた。
「へ? ……あ、そ、そう? さっき入ったばっか……だから、かな?」
黒絵さんが更に顔を寄せてきた。息が当たる。俺は一歩後ずさり、背後のドアに背中をぶつけた。
く、く、く、黒絵さんっっ!?
スローモーションのようにゆっくりと覆いかぶさってくる黒絵さんに息を止める。
もう逃げ場が無い。黒絵さんの口角が、ゆっくりと上がるのを至近距離で捉える。
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