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オールウェイズの恋人
「……はぁ……」
大方の予想はついていた。
だからこそ、風呂を出た途端に聞こえた着信音を耳に、体だけはきちんと拭き出てきたのだ。床が濡れてこれ以上の手間を増やしたくない。
ディスプレイの『A一〇五:黒絵璃人』の文字に溜息が漏れる。スリーコール待ち、ついでにもう三回呼び出し音を鳴らしてから通話をタップした。
「もしもし。桜坂です」
『どうも、 黒絵です。ちょっと来てもらってもいいですか?』
まただ。
電話口から聞こえてくるボソボソと暗い口調にうんざりする。
黒絵璃人さん。俺の管理するAアパートの住人だ。
彼はいわゆるクレーマー。ことあるごとに部屋に来てくれと俺を呼びつける。その内容はいつだって大した問題でも用事でもない。恐らく今回もそうだろう。
ちょっとって……。
全然申し訳ないと思っていない口ぶりにイライラを隠しながら言った。
「どうされました? もう八時も過ぎてますし……明日でもいいですか?」
『いやぁ、……ダメですか?』
「どうしたんです?」
『んー、……トイレの扉がね? 開かないんですよ』
「……そう、なんですか……。……分かりました。すみません。今、風呂から上がったばかりで。着替えますので十五分ほど待って下さい。……待てます?」
最後の抵抗で迷惑なのを強調してみたが、彼は軽い口調で言った。
『なるべく早く頼みます。ほら、漏れちゃうし』
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