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住む世界の違う人
決められた道を進むことに疑問を感じなかった訳ではない。ただ、それに背くほど自分自身には何も無かっただけ。
環境と能力が与えられ、それを形にしていく。
順調な人生だったと思う。しかしそれは、自分の中の違和感を見て見ぬふりをしてきたに過ぎない。
自分の努力や両親が与えてくれた環境だけではどうにもならないもの。
自分は他人とは違うのだとはっきりと気が付いたのは中学三年生の頃。
家庭教師の大学生の男に性的なものを感じた。
「こんにちは。志摩です」
こちらに伸ばされた大きく骨張った手は、越えられなかった世界に連れ出してくれるように思えた。それは一方的なものだと分かってはいたが、初めて自分の意識の中で人を愛しいと思った。
その相手が男であっても、曖昧に息苦しさを感じていた自分と言うものが明確になった事は、残酷で嬉しいものだった。
触れた指先は熱く、俺の中で燻っていたものを目覚めさせる。
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