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自分の部屋で2人きり。体を密着させ、吐息すら聞こえる距離で勉強を教わる。
年頃の息子に女の家庭教師を選ばなかった母親の配慮が逆に染み入る。
骨張った鼻筋に長いまつ毛。アーモンド型の瞳に口元のホクロ。日に焼けた肌と少し茶色に染まった髪色。名門大学生でなければ、遊び人の様にも見えた。
「涼くんは彼女はいるの? モテるでしょ? 見た目も良いし頭も良い」
先生が採点中にこちらを見て笑う。優しい目をしていた。
「あ……いや。俺は……」
「受験生だしね。と言うか進学校じゃそんな暇もないか」
俺の通っている学校は中高一貫校だが、高校に進学するタイミングにテストがあり、その結果によってクラスが分けられる。
Sクラスから始まり、A.B.C.Dとランク分けされる。最低でもAに入らなければ父親の不機嫌な顔が目に浮かぶ。入学後も半期ごとの試験によって、クラス分けがされるが、C.Dに振り分けされた人間がA以上になる事はほぼ無い。
「……先生は? 彼女……いるの? 」
会話の流れで聞き返す。たったそれだけの事なのに、心臓の音はうるさいくらいに高まっていた。いると言われても、いないと言われても、苦しむだけなのは分かっていたのに聞かずには居られなかった。
「ん? あ、俺? 振られたばっか」
先生はそう言って悪戯に笑った。すぐにテストに視線を戻し、俺から目を背けた。
俺が女ならば、ここで「私はどうですか? 」と言えたのかも知れない。
色仕掛けなとど稚拙な行為も出来たのかも知れない。
同性同士の恋はどうに始めたらいいのだろう。俺は唇をぎゅっと閉じて先生から目を背けた。
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