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高校進学と共に先生との契約は終わって、初恋と呼ぶには俺の未発達な心にはあまりに短い時間だった。
10代の俺の性欲は溢れるばかりだったが、勉強を疎かにすれば降格すると言う、半ば脅しのような学校のシステムに俺の生活は学校と塾の往復が大半を占めていた。
エリートの道を志す特進クラスに、漫画の様に俺を突然奪ってくれる野獣の様な王子も居らず、1人自慰で満たす日々。
飢えた欲望が表に出ることは許されず、現実世界で自分の恋が実ることは無いと知って、新たに目標を立てた。
父と同じ大学に入ること。大学生になったら憧れていた場所に行くことを励みに俺は、青春と言う何にも変え難い煌びやかな短い高校生活を、自分の未来の為、勉強だけに費やした。
そして念願叶って、希望通りの大学に入学し、俺は夜の街に足を踏み入れる。
「BAR ラプラス」初心者向けのゲイバー。
ゲイバーにも多くの種類があって、女装をした店子さんが多い店や、女の子のお客さんも受け入れるミックスバーと呼ばれる店。一見お断りの店や、発展場と言って体を求め合う場所などがある。
「ラプラス」を選んだのは、ノンケや女の子が来ない点と、すぐに体を求め合う事に恐怖心もあった。派手なクラブみたいな場所も苦手で、落ち着いた雰囲気でホームページに載っていた「ミキママ」の優しそうな雰囲気が決め手だった。
1人「ラプラス」の扉を開く。開店と同時ならば人が居ないと思って、早めに訪ねることにした。
濃い茶色の扉に「ラプラス」と書かれている。木製の取っ手を掴むと、手汗がじっとりと馴染む。
もう夏も終わりだと言うのに、身体中が汗ばむ。
カランと扉に付けられた鐘が鳴り、流されるまま自分の存在を知らせた。
鐘の音が漂うように耳に残り、体がこわばるほど緊張感が頂点に達する。
店内は右手側にカウンターがあって椅子が7脚ほど。奥には小さな丸テーブルが2つ。
ホームページに載っていた通り、派手さは無く、落ち着いた雰囲気だった。
「いらっしゃい」
カウンターから声が届く。薄いピンク色のワイシャツを肘の辺りまで捲っている。タバコをふかしながら少しつりあがった眉で妖艶に微笑んで、こちらを優しい目で見てくる。ミキママだ。
立ち尽くす俺を全身見回してから、ミキママは笑って「見ない顔ね」と言った。
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