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「室井美玲」
「はい!」
室井は立ち上がり階段の前へのろのろと向かう。『卒業証書を受け取ってしまったら、中学校生活が終わってしまう』そう感じていた。
室井の前の生徒が校長先生にお辞儀をし、左側の階段へ捌けていく。校長は次の証書を手に取り読み上げる。
「室井美玲、以下同文」
校長と対峙する生徒が顔を顰め受け取ろうとしない。生徒は小声で「先生、私は室井さんの次ですよ」と間違いを指摘した。校長も慌てて次の証書の名前を一瞥し、裏返した掌を頬に立てオネエのような仕草で「おたく、森いずなさん?」と訊き返す。生徒は小刻みに頷いた。
テンポが乱れたのはその時だけで、卒業式は無事修了した。教室へ戻った生徒たちは、友達や好きだった先生と写真を撮ったり、過去を懐かしんでいた。
「ねえ、美玲ちゃん見なかった? どこにもいないんだけど」
「そう言えば、いないね。休みってことはないよね」
「それはない! 今朝も私、一緒にいたもん。それに授与式の時は返事してたし」
室井美玲の話題に森いずなが耳を傾けていた。授与の際に、証書を間違えられたことが気になっていた。
「私が卒業証書を受けとるとき、室井さんの証書はまだあったよ。校長先生間違えてたから」
「えっ、そうなの? それじゃあ美玲ちゃん舞台上に上がってないってことじゃん」
「うそ、どこにいっちゃったの?」
室井美玲は、式典の最中にも関わらず全校生徒の前で、ロウソクの炎が消えるように忽然と消えてしまった。
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