カエルの王女様

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 次の日の朝、萌華(もか)が校舎内に入ると、 りかがベンチに腰かけているのを見つけた。 入学式の後、今日会うことを約束していたのだ。  知り合いを見つけたうれしさから、萌華は飛び跳ねるように小走りで 駆け寄った。  今日のりかは、白色の無地の長Tシャツ、ジーンズに黒のコンバース姿。 シンプルな服装だからこそ、似合っているりかを素敵だと萌華は思った。 「おはようございます。稲生さん!」 「あっ、おはよう。朝から元気だね」 りかに言われ、萌華は微笑んだ。    ”元気って褒めてもらえてうれしい。    今まで人に怒られてばかりだったから”    萌華の心は、ほんのりと温かくなった。 「じゃあ、行こうか?」 とりかに言われ、萌華は大きくうなづき並んで歩き出した。 カフェテリアの前を通りかかると 「これ落としましたよ」 という男性の声に後ろを振り返ると、男性がハンカチを差し出して くれている。 萌華は胸に抱えた教科書の上に置いていたハンカチがない。 見慣れた柄のハンカチを彼の手の中に見つけ 「あっ、私のです。ありがとうございます。」 「萌華はおっちょこちょいなんだから」と隣にいるりかに言われた。 肩を少しもち上げ 「えへへ」と萌香は笑い、すみませんと言いながらハンカチを受け取り、 拾ってくれた男性の顔を見た。  その彼は背が高かったため、萌華はかなり上を見上げる形になった。 首を後ろへかなり反らさなければ、はるか上にある彼の顔を 見ることができないほど背が高かった。 「あ…あ、ありがとうございます。そそっかしくてよく物を 落として失くしてしまうんです。大事なハンカチだったので、 拾っていただけて良かったです」 萌華はどぎまぎしながら正直に話した。 「僕が座っている目の前で落とされたので、すぐに気づきましたよ。  良かったですね」 彼は優しく微笑み、じゃあと言って立ち去ってしまった。  萌華は少しの間立ち尽くしていたが りかに「さあ行こう。講義に遅れるよ!」 と言われ、我に返って歩き始めた。 歩きながら、萌華は身体が熱くなるのを感じた。 心臓がはねるほど大きく動き、視界がぼやけている。     ”こんなにドキドキするのはなぜだろう…” 今まで経験したことのない感情に萌華は自分が自分でないような感覚だった。
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