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「かっこいい人だったね」
横を歩くりかに言われ、萌華はどぎまぎしてしまった。
自分のことではないのに褒められてうれしいなんて不思議だったが、
頬が赤くなっているのを隠すために下を向いた。
講義が始まっても、彼の顔がちらつくので目をつむってみたけど
頭に浮かんでくる。
さっきから微熱が出ているのか身体が熱くなり、先生の声も
りかの声も遠くに聞こえる。
”私、どうしちゃったんだろう”
萌華は自分がおかしくなってしまったのではないかと思った。
”萌華は考えていることが全て顔に出ておもしろいわ。
軽い感じのさっきの彼に恋しちゃったんだろうけど、
もう少し放っておこう”
一人でどぎまぎしている萌華の横で、りかはこっそりほほ笑んでいた。
次の日、萌華はハンカチを拾ってもらった場所であるカフェテリアの
前へ行くのに緊張していた。
ロボットのように手と足が同時に出そう。
右手と左手、左手と右足。
ちゃんと頭で考えていないとちゃんと歩けそうになかった。
”今日もあの人がいるとは限らないし
あの人が私のことを覚えている訳ないし
また会えるとも限らない…”
そこまで考えて、はぁとため息をついた自分に驚いた。
”違う、違う。私は大学へ勉強するために来ているんだ!”
雑念を振り払うために、頭をぶるぶるとはげしく左右に振ってみた。
髪の毛が乱れるほど振り、頭がくらくらした。
そんな自分に嫌気がさして、またため息をついた。
「そんなにため息ばかりをしていたら幸せが逃げていくよ~」
と後ろから声が聞こえた。
その声は、昨日の人だった。
「僕、池松聡と言います。テニスサークルの部長をしてるんです。
楽しい大学生活を送るためにテニスサークルに入らない?」
もちろん無理にとは言わないよ。君がよかったらだけどね
と言う聡を見上げて、躊躇せずに”はい”と萌華は返事をしていた。
りかの萌華ってスポーツできる感じがしないんだけど大丈夫?
という声は萌華には聞こえていなかった。
キラキラした目で聡を見つめる萌華を見て、りかは萌華にこれ以上
は何を言ってもだめだと思い、あきらめた。
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