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田中巡査は竹光の刀身を鞘に戻しながらつぶやいた。
「結構重さがあるんだな」
ヒミコが答えた。
「中に鉛を流し込んで重しにしてあるんですわ。あんまり軽すぎると、動きにリアリティが無くなるらしゅうて」
山田が笑いながら田中に言う。
「君は萬歳橋署の管轄の交番勤務は初めてだったな。こういう街なんだよ、秋葉原というのは」
「巡査長、知ってたんですね。だったら最初から教えておいて下さいよ」
「ははは、悪い悪い。そのうちにと思ってたんだが」
山田巡査長は鞘に戻した刀をヒミコに手渡しながら言った。
「はい、返すよ。気を悪くしないでくれな。仕事熱心な新人警官なもんで」
ヒミコは受け取った刀を筒状のケースに仕舞って、背中に背負い直した。
「いえ、こちらこそ、不注意して堪忍ですわ。ほな、もう行ってよろしいかいな?」
「ああ、もちろん。引き留めてすまなかったね」
ヒミコとトモエが再び歩きだす。その後ろ姿を見ながら、田中巡査が未だに納得しかねるという表情で山田巡査長にささやく。
「模造品とは言え、あんな物を真昼間から若い女性が街中で持ち歩いているって、どうなってるんですか、この街は」
山田巡査長は笑いながら、田中巡査を諭した。
「それがこの街の面白いところなんだよ。我々警察官の出番がないのは、世の中にとってはいい事じゃないか」
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