秋葉原発、冥土行き

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 もう一人のアリス姿の女性がトモエに言った。 「それを手に取ってみて下さい」 「え? は、はあ」  トモエがおそるおそるその円柱を手に取ると、程よい暖かさが掌に伝わった。布の端らしき影が見えたので引っ張ってみると、長方形の布になった。 「これ、ひょっとしておしぼり? それも暖かい!」  アリス姿のもう一人が言った。 「簡易おしぼりって言うらしいんですけどね。初めてうちのお店に来たお客さんに一回だけ出す、スペシャルサービスなんですよ」  帽子屋の服装の女性がヒミコに言った。 「大丈夫みたいですね。いやあ、助かった。ほら、今の時期って、進学とか就職とかで初めてのお客さんが増える時期じゃないですか。このおしぼりが切れてて歓迎の儀式できなくなったらどうしようって、心配したんですよ」  ヒミコはトートバッグからタブレットPCを取り出し、ペン状の入力器具を帽子屋の格好の女性に手渡した。その顔は微笑を浮かべていたが、トモエはそれが単なる営業スマイルでしかない事を感じ取った。 「ほな、ここに受け取りのサインをお願いできますか? はい、結構です。そしたら、請求はいつも通り、月末に運営会社さんの方に送りますさかい」  要件を済ませたヒミコとトモエを、アリス姿の一人がエレベーターのドアまで見送ってくれた。彼女は上機嫌でトモエに言った。 「そのうち是非お客さんとして来てね」  トモエは目をぱちくりさせた。 「え? 女の人がお客で着ていいんですか?」 「もちろん! うちは結構女のお客さん来るよ。カップルで来る事もあるし」 「そ、そうなんですか」  
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