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エレベーターで1階に降り、ビルから出て事務所の方へ向かいながら、トモエはヒミコに言った。
「あれが噂に聞くメイド喫茶なんですか?」
「最近はコンカフェて呼ぶ方が多いけどな」
「なんかイメージと違ってました。なんというか、ちょっといかがわしい所だって話聞いた事あるんで」
「一口に秋葉原言うても広い繁華街やしな。それにどこからどこまでて境界線があるわけやない、通称としての街やさかい、いかがわしいとこも、そりゃようけ探せば多少はありますやろ」
ヒミコは急に立ち止まり、振り返ってトモエの顔をじっと見た。
「せやけど、ほとんどの店の女の子たちは、さっきみたいな、どうやってお客さんに楽しんでもらえるか、それを一生懸命に考えてるような人たちなんや。うちの会社のお得意さんでもあるしな。妙な色眼鏡で見るんだけは、やめとくなはれ」
「は、はい。分かりました」
ホワイト・リズムの事務所に戻ると、ウルハとトワノももう帰って来ていた。
トワノが事務所の奥のソファを指差してトモエに言う。
「ねえ、あれ、トモエちゃんのスマホじゃない? さっき着信音が何度もしてたよ」
「あ!」
トモエはそこで初めてスマホをそこに置きっぱなしにしていた事に気づいた。あわてて履歴を確認したトモエは、青ざめた顔で小さく悲鳴を上げた。
「どうかしたか?」
ウルハが背後から首を伸ばしてトモエに訊く。
「これを……」
トモエが震える手でメールの文面を見せる。そこには、トモエの高校の同級生から送られた文章がこう綴られていた。
『友恵、助けて。あたし外国に売られる』
メールはそれだけだった。通話の着信履歴もその同級生からの物で、5分おきに20回以上ずらりと並んでいる。
トモエはあわててコールバックしたが、スマホからは「この電話は現在電波が届かない所にあるか、電源が入っておりません」というアナウンスが返って来た。
ヒミコが冷静な表情と口調でトモエに訊いた。
「あんさんの友達かいな?」
トモエはぶるぶる震えながら答える。
「ルリっていう、あたしが通ってた高校の同級生です。あたしの父親と、この子の父親は仲が良かった。ルリもあたしと同じ目に……」
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