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ほっと安心した瞬間、昨夜目撃したあのシーンが雷撃のように友恵の脳裏によみがえった。
「そうだ、警察に連絡して下さい! あたし、見たんです。殺人事件を! 男の人が、日本刀を持った女の人に殺されたんです!」
ウルハと、パンツスーツの女は顔を見合わせて首をかしげた。ウルハが問う。
「アネゴ、そんな話聞いてるか?」
パンツスーツの女は首を横に振った。
「そんな事件あったら、今頃この辺は大騒ぎやろ。仮にそうやとして、あんたどこでその殺人事件とやらを見たんや?」
「それは、あたしが倒れていたというその場所です!」
パンツスーツの女は再び首を大きくかしげて言葉を続けた。
「だったら、あんさんを見つけて拾うた時に、ウチらが気づかんはずないやろ。ウルハ、あんた、何かおかしなもん、見たか?」
ウルハは両手を掌を上にして肩まで上げ、訳が分からないというポーズをして言った。
「いや。ひょっとしてこの子に連れがいるかも、と思って、あの辺ひと通り見て回ったけど、何もなかったぜ」
パンツスーツの女が友恵に目を向けて言った。
「ま、あんな状態で気を失のうてたんや。悪い夢でも見たんやろ。ところで、あんさんの名前を教えてもらえますか? ウチはこういうモンや」
そう言ってスーツの内ポケットから出した名刺を友恵に手渡した。そこにはこう印字してあった。
「株式会社 ホワイト・リズム 代表取締役社長 朱雀大路ヒミコ」
ウルハも自分の名刺を手渡した。
「株式会社 ホワイト・リズム 厳島ウルハ」
友恵はベッドから降り、二人に深々と一礼してから名乗った。
「御前崎友恵といいます。このたびは、本当にお世話になりました。あの、それで、ええと……すざくおおじ……さん」
「下の名前でヒミコでええよ。呼びにくいでっしゃろからな。こっちもあんさんの事はトモエと呼ばしてもろうてええか?」
ウルハもイケメンの男にしか見えない微笑を浮かべながら言った。
「俺もウルハでいいぜ。まったく、うちの連中はそろいもそろって呼びにくい苗字だからな」
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